ジョイント・ベンチャーの形態(2)-税務上の観点からの考察

前回は法務的観点からJVの形態について考察しましたが、今回は税務上の観点からの考察をします。

税務上ポイントとなるのは、主に、(1)JVのビジネスの損失を他のビジネスの利益と通算させて相殺することができるかどうかという点、及び(2)JVのビジネスの利益を配当等によって出資者に還元する場合に柔軟に行うことができるか、また、二重課税を課されることはないか、という点であるといえます。

 

 

 

 

Incorporated JV

 

 

Unincorporated JV

 

 

信託(Unit Trust

 

 

概要

 

 

JVビジネスに関する損益の計算を行い、JV会社が当該損益の計算に基づいて税金(所得税)を支払うことになります。JV当事者とJV会社は別Entityであり、それぞれ個別に損益の計算を行い、税金を支払うことになります。

 

 

JVビジネスに関する損益の計算を行い、その損益の結果はJV持分割合に基づいてJV当事者に帰属します。JV当事者は自己に帰属するJVビジネスの利益について税金(所得税)を支払います。

 

 

JVビジネスに関する損益の計算を行い、その損益の結果を信託(Unit Trust)に対する受益権の持分(Unit)割合に基づいてJV当事者に帰属します。JV当事者は自己に帰属するJVビジネスの利益について税金(所得税)を支払います。

 

 

JVビジネスの損失をJV以外のビジネスの利益と相殺できるか

 

 

JV会社で生じた損失(JVビジネスの損失)をJV当事者の他のビジネスの利益と相殺させてJV当事者の利益を減少させて納税額を減らすことはできません。

但し、一定の条件を満たせば、JV会社はJVビジネスの損失を翌年以降に繰り越し、翌年以降にJV会社に発生する利益と相殺することができます。

 

 

JV当事者はJVビジネスの損益を他のビジネスの損益と通算して損益計算を行うことができます。

また、一定の条件を満たせば損失を翌年以降に繰り越すこともできます。

 

 

信託で生じた損失(JVビジネスの損失)は信託レベルで留まり、JV当事者の他のビジネスの利益と相殺させることはできません。

但し、一定の条件を満たせば、信託はJVビジネスの損失を翌年以降に繰り越し、翌年以降に信託に発生する利益と相殺することができます。

 

 

JVビジネスの利益還元に関する要件及び税金

 

 

JV会社の利益や財産をJV当事者に還元するためには会社法上の利益配当の要件(債務超過でないこと、十分な会計上の利益があること等)を満たす必要があります。

JV当事者はJV会社からの配当に所得税を課されます。ただし、JV会社のレベルで支払った配当利益にかかる所得税は、JV当事者が支払う所得税から差し引くことができます(Franking
  Credit
といいます)。

 

 

JVビジネスの利益はすでにJV当事者に帰属しており、還元をする必要はありません。

 

 

信託財産をJV当事者に還元することは信託契約の規定に従って行われますが、会社法の利益配当の要件のようなものはなく、十分な会計上の利益がない場合でもJV当事者に対する還元を行うこともできます。会社の減資に相当する信託財産の払い戻しも会社法上の減資の要件の適用を受けず、信託契約に従って行うことができます。

信託レベルでは所得税は課されませんが、JV当事者は信託からの配当に所得税を課されます。

 

上記のとおり、税務上の観点から見るとUnincorporated JVが優れており、特にJV当事者がJVビジネスの損益を他のビジネスの損益と通算して損益計算を行うことができるという点のメリットは非常に大きいといえます。

Unincorporated JVのデメリットは、前回説明したとおり、JVに関する債務についてJV当事者が無限責任を負うという点ですが、このデメリットについてはJV当事者自体を特別目的会社(Special Purpose
Company
)にすることによって対応することができます。

豪州の資源関係分野でよく見られるのは、豪州の統括会社の下に、プロジェクト毎に会社(SPC)を設立し、当該SPCJV相手とUnincorporated
JV
を組成するというものです。豪州の統括会社の下にプロジェクトの数だけSPCがぶら下がることになりますが、これらの統括会社とSPCをまとめて連結納税の対象とすることで各SPC(各プロジェクト)の損益を通算させることができます。

以上、前回と今回で法務及び税務上の観点からジョイント・ベンチャーの形態を考察してきましたが、細かい問題は他にも数多くあり、各形態のメリット・デメリットを総合的に考慮した上で、ジョイント・ベンチャーの形態を決定する必要があります。