オーストラリアの労働法

オーストラリアにおける雇用者(企業)と従業員の雇用関係が問題となった場合、雇用者(企業)と従業員の間の権利・義務を確認するためには、主として、以下の文書を確認する必要があります。

1.雇用契約(Employment Contract

2.就業規則

3.労働法令

4.労使裁定(Modern Award

5.労働協約(Enterprise Agreement

 

以下、これらの文書について、順に解説します。

1.雇用契約(Employment Contract

雇用者と従業員の間で個別に締結される雇用契約です。雇用契約の形態としては、きちんとした雇用契約書という形式になっているものもあれば、雇用者からのオファー・レターに従業員がサインするという形式のものもあります。雇用契約では雇用条件についての規定が定められますが、以下に説明する労働法令や労使裁定・労働協約等で定める最低条件に違反する条項は効力を有しません。

2.就業規則

オーストラリアでは、就業規則はPolicyと呼ばれることが多いです。就業規則は、雇用契約に組み込まれて雇用契約の内容となる場合(雇用契約書等において就業規則が雇用契約の一部となることが規定されている場合等)には、雇用者及び従業員に対して雇用契約として拘束力を有することになります。

3.労働法令

雇用関係を規律する主たる法律は、連邦法であるFair Work Act 2009 (Cth)(フェア・ワーク法)であり、オーストラリアの全州・準州で統一的に適用されています。この法律では、最低限満たさなければならない雇用条件であるNational Employment Standards (NES)が定められています。NESの内容としては、労働時間(38時間/週)、有給休暇(20/年)、従業員が柔軟な勤務形態を請求できる権利、解雇手続等があります。

また、上記のフェア・ワーク法に基づいて、政府機関であるFair Work Commissionが毎年National Minimum Wage Order(全国最低賃金命令)を出し、オーストラリア全国一律に適用される最低賃金(2015年現在の最低賃金は、17.29豪ドル/時間)を定めています。

なお、雇用関係の大部分は連邦法であるフェア・ワーク法によって規律されていますが、差別禁止、労働安全衛生等の一部の分野は州法が規律する分野であり、各州が個別に法律を定めており、州毎に内容が異なります。

4.労使裁定(Modern Award

労使裁定は、Fair Work Commissionが業界・職種毎に定める法律文書であり、フェア・ワーク法が定める最低条件(NES)に上乗せ又は追加する形で、業界・職種別の最低基準(最低賃金等)を定めています。例えば、飲食業界であればRestaurant Industry Awardが適用され、事務職であればClerks – Private Sector Awardが適用されるといった具合になます。この労使裁定は、他の国には見られないオーストラリアに特徴的なものとなっています。労使裁定のリスト及び内容は、こちらで見ることができます。

 

5.労働協約(Enterprise Agreement

労働協約は、従業員の集団(労働組合等)と雇用者(企業)の間で協議を経た上で合意によって締結されるものであり、当該雇用者(企業)に適用される最低基準を定めています。労働協約が適用される場合には、4.の労使裁定は労働協約によって置き換えられることになり、労使裁定は適用されません(労使裁定と労働協約は択一的な適用関係となります)。労働協約の内容は公表されており、こちらで検索することができます。

 

上記のとおり、オーストラリアでは、上記の1.~5.の文書を確認しなければ、雇用者(企業)と従業員の権利・義務を確認することができないことになっています。雇用契約と労働法令は確認したものの、労使裁定の確認をしておらず、権利・義務関係について誤った判断をしてしまったという事例もありますので注意が必要です。