オーストラリアで不動産を購入する際の注意点

ここ数年、日本の企業又は個人による豪州の不動産に対する投資が活発化してきています。これまでに不動産売買取引に関わった経験を元に、日本と豪州の不動産売買取引実務の違いについて、以下にリストアップしてみました。

・ 外国人(日本人を含む)による豪州の不動産購入にはFIRB(外国投資審査委員会)の許可が必要になります。そして、購入対象が居住用物件である場合、新築物件を除いて、この許可を得ることは原則としてできません。但し、豪州の永住権保有者は、FIRBの許可なしに豪州の不動産を購入することができます。

・ 豪州では日本のような包括的な売主の法定の瑕疵担保責任(民法570条、566条)はありません。売買契約において不動産の瑕疵に関する売主の瑕疵担保責任が定められていれば、買主は売買契約の規定に従って売主に対して瑕疵担保責任に基づく損賠賠償請求等を行うことができますが、基本的に現状有姿の売買であり、瑕疵があっても売主は責任を負わないことが多いといえます。なお、州によっては(例えば、クイーンズランド州)、住宅保証の制度が法律で定められており、建設会社が建設した住宅に瑕疵があった場合、当該住宅の買主はこの制度に基づいて住宅保証機構に対して保証金を請求することができます。

・ 日本の宅地建物取引業法に基づく重要事項説明書の交付もないため、買主が自分で業者を雇って適切な調査(デューディリジェンス)を行わなければなりません。但し、州によっては(例えば、ヴィクトリア州)、重要事項説明書に近いもの(Vendor’s
Statement
等の名称で呼ばれる)を売主側が買主側に提供する義務を負っていますが、これに完全に依拠することはせずに、買主はデューディリジェンスを行うのが通常です。買主によるデューディリジェンスには、「弁護士による登記情報、都市計画等の調査」、「建築業者による建物調査」、「害虫駆除業者による害虫被害調査」、「鑑定業者からの鑑定評価の取得」等があります。具体的にあった問題事例としては、洪水マップをチェックせずに洪水の被害を受けやすい場所の不動産を買ってしまった例や、区画(Zoning)マップをチェックせずに古い建物(1946年以前に建築された建物)を保存する地区にある古い建物を買ってしまい建物の取り壊しができない(改築はできる)といった例があります。

・ 仲介業者は売主側が立てるものであり、売主側の利益を代理しますので、中立ではありません。豪州では両手仲介は禁止されています。但し、買主側で別途買主側の利益を代表する仲介業者を雇うことはできます。

・ 仲介業者に支払う仲介手数料は法律で定められておらず交渉で自由に決めることができます。なお、普通は売主側が仲介業者を雇うので、売主は自身が雇用した仲介業者に対して仲介手数料を支払うことになります。

・ 不動産売買取引には売主・買主双方が弁護士を立てて取引を実行するのが通常です。不動産売買契約書は不動産業界団体が作成しているフォーマットを使用するのが通常ですが、この不動産売買契約書も締結する前に弁護士にレビューをしてもらうべきです。

・ そもそもオーストラリアでは建物は土地とは別個の不動産では無く、土地の付従物にすぎないため、建物の登記簿は存在しません(以前のエントリーもご参照)。

・ 新築マンションの売買取引には、物件が未完成の状態で売買契約書を締結するというオフ・ザ・プラン(Off the Plan:設計図面に基づいて購入するという意味)の取引が多く行われています。ただ、売買契約書にはいつまでに物件を完成して引き渡さなければならないといった規定は無く、一定の期間(例えば契約書締結から18ヶ月間)に物件の完成・引渡しがなされなければ、買主は契約書を解除することができるという規定が入っているに過ぎないことが多いといえます。また、オーストラリアでは、建築工事は遅延するのが通常であり、実際には契約締結時に完成・引渡予定日として伝えられた日よりもかなり後に完成・引渡がなされることが多いので注意が必要です。

とりあえず思いついたのは以上ですが、今後も適宜追加していきたいと思います。