これまでに何回かこのブログを見た方からオーストラリアの法律に関する書籍を紹介してほしいという連絡を受けることがありました。そこで今回はオーストラリアの法律の各分野における定番の基本書を紹介します。基本書とは、特定の法律分野の基本的な内容が一通り書いてある本のことで、それ一冊を手元においておけばその分野の法律に関しては安心できるというものをいいます。例えば、日本法では、会社法であれば江頭『会社法』、民法であれば内田『民法』、破産法であれば伊藤真『破産法』等々です。
会社法: 『Ford,
Austin and Ramsay’s Principles of Corporations Law』(16th Edition)、著者:Robert P Austin、Ian M Ramsay、出版社:LexisNexis Butterworths
日本法における江頭『会社法』に相当します。豪州のコーポレート・ロイヤーでこの本のことを知らない人はいないと思います。会社法に関するリサーチをする際にまず開く本です。
金商法(業法関係): 『Securities
and Financial Services law』(9th
Edition)、著者:Robert Baxt、Ashley Black、Pamela Hanrahan、出版社:LexisNexis Butterworths
オーストラリアの金融関係の法規制について網羅的かつ詳細に説明してある数少ない本の一つです。
金融取引法: 『Australian
Finance Law』(7th Edition)、著者:King & Wood Mallesons、出版社:Thomson Reuters
オーストラリアの六大法律事務所の一つであるKing & Wood Mallesonsがファイナンス取引の実務について網羅的に説明している本です。日本の西村あさひ法律事務所が出版した『ファイナンス法大全』に位置づけがよく似ており、オーストラリアのファイナンス取引の実務を理解する際に役に立ちます。担保・保証の設定・対抗要件具備、担保の順位づけ等についても書いてあります。
倒産法: 『Keay’s
Insolvency – Personal and Corporate Law and Practice』(9th Edition)、著者:Michael Murray、Jason Harris、出版社:Thomson Reuters
オーストラリアの倒産法関係に関する本の中でこの本が一番しっかりしています。倒産法は法律の条文だけ読んでも実務がどう動いている分からないことが多いのですが、この本は実務的な面もカバーしています。
労働法: 『Stewart’s
Guide to Employment Law』(5th
Edition)、著者:Andrew Stewart、出版社:The Federation Press
日本の菅野『労働法』に比べると若干薄い感じですが、基本は押さえており、労働法の専門弁護士でない限りはこれ一冊で大体事足りると思います。
民事訴訟法: 『Australian
Civil Procedure』(11th Edition)、著者:Bernard Cairns、出版社:Thomson Reuters
オーストラリアでは連邦の裁判所と州の裁判所があって訴訟手続が異なり、州の裁判所も各州毎に訴訟手続が異なっているのですが、この本では連邦及び各州の全ての訴訟手続を網羅して説明しています。Discovery、Privilege等の日本には無い訴訟関係手続についても説明されています。
契約法: 『Principles
of Contract Law』(5th Edition)、著者:Jeannie Paterson、Andrew Robertson、Arlen Duke、出版社:Thomson Reuters
契約法に関しては別にもっと版を重ねている本もあるのですが、私は上記の本が良いと思っています。この本では判例で示された原則のみが簡潔に説明されており(他の契約法に関する本では長々と判例が引用されたりして分かりにくい内容のものが多い)、使い勝手がよいと思います。
信託法: 『Jacobs’
Law of Trusts in Australia』(8th Edition)、著者:J D Haydon、M J Leeming、出版社:LexisNexis Butterworths
オーストラリアの信託法関係で最も権威のある本だと思います。信託法関係のリサーチならまずこの本にあたります。裁判所の判例にもオーソリティとしてこの本の内容が引用されたりしています。
国際私法: 『Nygh’s
Conflict of Laws in Australia』(9th
Edition)、著者:M Davies、A S Bell、P L G Brereton、出版社:LexisNexis Butterworths
各法分野毎におけるオーストラリアの国際私法のルールが細かく説明されています。反致(はんち
– renvoi)に関する説明もしっかりしています。なお、オーストラリアの国際私法は制定法ではなく判例法です。