Casual Employee(臨時従業員)に関する法律改正

今回の記事は、2020年8月8日に掲載した2つの記事(Casual Employee(臨時従業員)に関する問題(1)(2))の続編の記事になります。

 上記の2つの記事で問題になっていたCasual Employee(臨時従業員)に関する問題について、法律改正により解決がなされました。

<参考>今回の法改正に関するオーストラリア政府の説明

Casual Employeeの該当性について争われている裁判(WorkPac Pty Ltd v Rossato)は、は現在オーストラリアの最高裁(High Court)に係属中ですが、今回の法改正は、この最高裁の判断を待たずに、立法的に問題の解決を図ったものといえます。

2021年3月22日にオーストラリア連邦議会で可決されたFair Work Amendment (Supporting Australia’s Job and Economic Recovery)Act 2021(Cth)により、オーストラリアの労働基本法であるFair Work Act 2009(Cth)(FWA)が2021年3月27日(改正日)より改正され、以下のような変更がなされました。

1.Casual Employee(臨時従業員)の定義の制定

改正後のFWAでは、Casual Employee(臨時従業員)の定義が規定されることになりました。Casual Employee(臨時従業員)は「仕事が継続して無期限にあるとは限らないという前提で雇用されることになった従業員」をいうと定義されました(改正FWA第15A条)。

Casual Loadingが支払われているどうかではなく、また、雇用された後にどのような形態で勤務したか否か(規則的なパターンで勤務を続けたか否かなど)は関係なく、上記のような前提で雇われることになったかどうか、という点がCasual Employeeの該当性の判断基準となります。これは「安定して(Stable)規則的(Regular)かつ予測可能な(Predictable)シフトで勤務しているCasual Employeeは正社員とみなす」というCasual Employeeの判断に関する裁判所の基準を否定して覆すものといえます。

2.正社員(Permanent Employee)への変更権

Casual Employeeの定義は雇用者側にとって有利ですが、これのバランスを取るものとして、改正後のFWAでは、雇用者は、「12ヶ月以上雇用されており、かつ、直近6ヶ月以上において規則的なパターンで継続的に勤務したCasual Employee」に対して、正社員(Permanent Employee)への変更のオファーをださなければならないことになりました(改正FWA第66B条)。但し、オファーを出さないことに合理的な理由がある場合(今後12ヶ月以内に当該Casual Employeeが担当している職務が無くなる場合や職務の分量が大幅に減少する場合、当該Casual Employeeが勤務日数や勤務回数について同様に勤務できず大きな調整が必要になる場合など)にはオファーを出さなくてよいとされています。

正社員への変更のオファーは、12ヶ月間の雇用期間が経過した後21日以内になされなければなりません。また、要件を満たさない又は例外事由に該当するなどにより、正社員への変更のオファーを出さない場合でもその旨を従業員に通知する必要があります。

また、雇用者側から上記のオファーを出さない場合であっても、「12ヶ月以上雇用されており、かつ、直近6ヶ月以上において規則的なパターンで継続的に勤務し、かつ、今後も大きな調整が必要なく同様に勤務できるCasual Employee」は雇用者に対して正社員への変更を要求することができます(改正FWA第66F条)。

正社員への変更の要求は、12ヶ月間の雇用期間から更に21日経過した後(すなわち雇用者がオファーを出さなければならない期間が経過した後)に出すことができます。

改正日においてCasual Employeeであった従業員については、雇用者は改正日から6ヶ月以内に正社員への変更権を付与するための要件を満たすか否かを判断し、要件を満たす従業員に対しては正社員への変更のオファーを出す必要があります。

但し、雇用者がSmall Business Employer(雇用している「正社員」と「規則的なパターンで継続的に勤務するCasual Employee」の数が15名未満の雇用者)である場合には例外的な取り扱いが定められており、雇用者からCasual Employeeに対して正社員への変更のオファーを出す必要がありませんが、Casual Employeeから雇用者に対して正社員への変更の要求をすることはできます。また、この正社員への変更の要求は12ヶ月の雇用期間後であればいつでも出すことができます(改正日からでも出すことができます)。

3.Casual Employment Information Statement

雇用者はCasual Employeeを雇用する際には、Casual Employeeの意味、12ヶ月間の勤務後の正社員への変更権等を記載したCasual Employment Information StatementをCasual Employeeに対して交付しなければならないことになりました(改正FWA第125B条)。

改正日の時点で雇用されているCasual Employeeに対しては、雇用者は改正日から6ヶ月経過後実務上可能な限り早急にCasual Employment Information Statementを交付する必要があります。

4.Casual Loadingとの相殺

Casual Employeeとして雇われた者がCasual Employeeではない(正社員である)と主張し、裁判所が当該主張を認めて、雇用者に対して当該従業員が正社員であることに基づく有給休暇などの補償の支払いを命ずる場合、裁判所は、雇用者が当該従業員に対して支払ったCasual Loadingを補償金額から差し引かなければならないとされました(改正FWA第545A条)。これはCasual EmployeeによるDouble Dipping(「Casual Loading」と「年次有給休暇等」の二重取り)を防止するための規定になります。

この規定は改正日前に発生した有給休暇などの権利や改正日前に支払われたCasual Loadingにも適用されます。

5.まとめ

この法改正によって、Casual Employeeをめぐる論争は終結することになりました。今後は正社員になることを希望するCasual Employeeは正社員への変更権を行使して正社員となることができるようになり、労働者の生活が安定することになると考えます。他方で、雇用者側としては正社員化が進むことにより雇用の調整(人員削減)がより難しくなると考えます。

今後作成するCasual Employeeの雇用契約書については、Casual Employeeの定義に沿った調整を行い、正社員への変更権を規定するなどの修正を行う必要があると考えます。

また、Casual Employeeを雇用している場合には、改正日(2021年3月27日)から6ヶ月以内に正社員への変更のオファーを出すか否かの判断をしたり、Casual Employment Information Statementを交付するなどの対応が必要になります。