オーストラリアの外資規制

外国投資家(外国人や外国資本の企業)によるオーストラリアへの投資は、Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)(外資買収法)によって規律されています。この法律は2015121日に大きな改正がありましたが、本稿ではこの改正後の内容を説明します。

外資買収法では、「外国人」が「オーストラリアの会社、事業、土地等に対する権益を取得する行為」に対して、連邦財務大臣への事前届出による規制を課しています。連邦財務大臣に対する通知等は、連邦財務大臣の諮問機関であるForeign Investment Review BoardFIRB)(外国投資審査委員会)を通じて行なわれます。 

規制の詳細は以下のとおりですが、基準値の適用が無い、若しくは基準値が比較的低く設定されている「アグリビジネス」や「オーストラリアの不動産」に対する権益の取得、又は基準値の適用が無い「外国政府投資家による行為」は気をつけなければなりませんが、それ以外の投資行為については基準値が高く設定されており、大規模な投資行為でなければ連邦財務大臣に対する通知等は必要にならないといえます。

1.規制対象者

規制の対象となる「外国人(Foreign Person)」とは、基本的には以下の(A)~(D)のいずれかに該当する者をいいます。

A)オーストラリアに通常居住していない個人

B)オーストラリアに通常居住していない個人、外国会社(外国で設立された会社)又は外国政府が単独で20%以上の権益を有する会社

C)オーストラリアに通常居住していない個人、外国会社(外国で設立された会社)又は外国政府が複数で合計40%以上の権益を有する会社

D)外国政府

2.規制対象行為

規制対象行為には、「重大行為(Significant Action)」と「通知行為(Notifiable Action)」の2種類があります。

(1)重大行為

外資買収法では、以下の(A)~(D)のような行為が重大行為とされています。連邦財務大臣の承認を得ずに重大行為が行なわれた場合、連邦財務大臣は当該重大行為の中止又は取消を命令することができます。重大行為について連邦財務大臣への通知は法律上義務付けられていませんが、通知を行なわずに重大行為を行なって後で連邦財務大臣によって当該重大行為の中止又は取消の命令を受けるリスクを避けるために、重大行為については事前に任意の通知を行なうのが通常です。

A)①外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式を取得し、②当該会社の総資産の価値又は当該株式の取得対価のいずれか高い方が基準値(当該外国人が日本人又は日本企業の場合は原則として1,094百万豪ドル、例外的に取得対象がメディア、通信、運輸等のSensitive Businessの場合は252百万豪ドル)を超過しており、かつ③当該会社が外国人によって支配(当該会社について外国人が単独で20%以上又は複数で40%以上の権益を有することを含む)されること。

B)①外国人がオーストラリアでの事業に関する資産を取得し、②当該取得の対価が基準値(当該外国人が日本人又は日本企業の場合は原則として1,094百万豪ドル、例外的に取得対象がメディア、通信、運輸等のSensitive Businessの場合は252百万豪ドル)を超過しており、かつ③当該事業が外国人によって支配(当該事業について外国人が単独で20%以上又は複数で40%以上の権益を有することを含む)されること。

C)①外国人がオーストラリアの土地に対する権益(鉱業権や5年を超える賃借権を含む)を取得し、かつ②当該土地に対する権益の取得が以下の基準値を超過している場合

(a)権益取得対象土地が「居住用地」、「更地の商業用地」、「鉱業権」、「外国政府投資家によって取得される土地」の場合:基準値はゼロであり、これらの土地に関する権益の取得の場合は常に基準値は超過しているとみなされる。

(b)権益取得対象土地が「農業用地」の場合:取得対象の農業用地に関する権益の取得対価と当該外国人が取得済の農業用地に関する既存の権益の価値の合計金額が15百万豪ドルを超過している場合。

(c)権益取得対象土地が上記以外の土地(たとえば、開発済の商業用地)である場合:取得対象の土地に対する権益の価値が1,094百万豪ドル(取得する外国人が日本人又は日本企業の場合)を超過している場合

D)①外国人が「アグリビジネス」(農業、林業、漁業、牧畜、園芸、一定の食品加工業等)を行なっているオーストラリアの会社又は事業に対する「直接的な権益(Direct Interest)」を取得し、②当該取得の対価と当該外国人が当該会社又は事業に対して有している既存の権益の価値の合計金額が基準値(55百万豪ドル)を超過している場合

「直接的な権益」の取得とは、以下の(a)(c)のいずれかに該当するものをいいます。

a)会社又は事業に対する10%以上の権益の取得

b)会社又は事業に対する5%以上の権益を取得し、かつ当該会社又は事業との間でビジネス上の契約関係に入ること

c)会社又は事業の経営に関与し、又は影響を与えることができるようになること

(2)通知行為

外資買収法では、以下の(A)~(C)の行為が通知行為とされており、連邦財務大臣に対する事前の通知が必要になります。

A)①外国人がオーストラリアで事業を営む会社の株式を取得し、かつ②当該会社の総資産の価値又は当該株式の取得対価のいずれか高い方が基準値(当該外国人が日本人又は日本企業の場合は原則として1,094百万豪ドル)を超過している場合

B)①外国人がオーストラリアの土地に対する権益(鉱業権や5年を超える賃借権を含む)を取得し、かつ②当該土地の権益の取得が上記(1)(C)の基準値を超過している場合

C)①外国人が「アグリビジネス」(農業、林業、漁業、牧畜、園芸、一定の食品加工業等)を行なっているオーストラリアの会社又は事業に対する「直接的な権益(Direct Interest)」を取得し、かつ②当該取得の対価と当該外国人が当該会社又は事業に対して有している既存の権益の価値の合計金額が基準値(55百万豪ドル)を超過している場合

(3)外国政府投資家による行為

外国政府投資家(Foreign Government Investor」(外国政府、外国政府が20%以上の権益を保有している会社等)による以下の(A)~(D)の行為は、「重大行為」かつ「通知行為」に該当します。この場合、基準値の適用はありません。

A)オーストラリアの会社又は事業に対する「直接的な権益(Direct Interest)」の取得

B)オーストラリアにおける事業の開始

C)オーストラリアの鉱業権・探査権の取得

D)オーストラリアの鉱業権・探査権の価値が総資産の価値の50%超となっている会社の10%以上の株式の取得

(4)オーストラリアのメディアビジネスへの投資

外国人がオーストラリアのメディアビジネス(日刊新聞発行、テレビ・ラジオ放送事業)を行なっている会社又は事業に対する権益の5%以上を取得する行為は、「重大行為」かつ「通知行為」に該当します。この場合、基準値の適用はありません。

3.連邦財務大臣による審査

重大行為又は通知行為について連邦財務大臣(FIRB)に対する通知がなされた場合、連邦財務大臣は40日(30日の審査期間+10日の通知・公告期間)以内に無条件承認、条件付承認又は不承認のいずれかの結論を出すことになります。審査期間は最大で90日間延長されることがあります。

連邦財務大臣は、対象行為が「オーストラリアの国益(National Interest)に反するか否か」という基準に基づいて、当該行為に対する判断を下します。このオーストラリアの国益が何であるかについては法令上定義されておらず、国益に反するか否かの判断には連邦財務大臣に広範な裁量が与えられています。国益に反するか否かの考慮要素としては、国家安全、競争、オーストラリア政府の政策、経済・コミュニティへの影響、投資家の属性等が挙げられています。

なお、連邦財務大臣に対する通知の際には、手数料(詳細については、こちらを参照)を支払う必要があります。

4.罰則

通知行為について事前通知を行なわない場合、重大行為について任意の通知を行なったのに連邦財務大臣の承認を得る前に重大行為を行なう場合、連邦財務大臣の命令に違反する場合等には、違反者に対して刑事罰又は/及び民事制裁が課されることになります。罰則の詳細については、Australia’s Foreign Investment PolicyのAnnex 3でまとめられています。