オーストラリアの倒産手続(外部管理)

オーストラリアでは、会社が「支払不能(insolent)」に陥った際には、外部の専門家が選任されて当該会社の管理を行なう(当該会社の取締役は当該会社を管理する権限を失う)という制度になっています。外部の専門家が会社の管理を行なうことを「外部管理(external
administration
)」といいます。外部管理の手続には、(1)レシーバーシップ(receivership、(2)任意管理手続(voluntary
administration
、及び(3)清算手続(winding up3つの種類があります。

上記の「支払不能」とは、弁済期が到来した債務を弁済することができない状態をいいます。したがって、債務超過ではない会社であっても弁済期が到来した債務を弁済するに足りるキャッシュが無ければ支払不能となります。

上記の3種類の外部管理について、以下概要を説明します。

 

1.レシーバーシップ

レシーバーシップは、通常は、担保権を有する債権者が当該担保権の実行として担保提供者(会社)に対してレシーバー(receiver)を選任することによって開始されます。レシーバーシップは、倒産手続というよりは、担保権の実行方法の一つです。選任されたレシーバーは、選任を行なった債権者のために、担保権の対象となっている担保提供者の資産を管理・処分し、当該資産から回収した金銭を当該債権者に分配することによって当該債権者に対する債務を弁済します。オーストラリアでは、会社の全ての資産に対して担保権を設定する全資産担保が利用されることが多いですが、全資産担保権を有する担保権者が選任したレシーバーは、当該会社の全資産を管理する、すなわち当該会社の経営をコントロールすることができることになります。レシーバーシップは、債権者に対する債務が全て弁済された時点で終了するのが通常です。レシーバーシップに相当する制度は日本には存在しないといえます。

 

2.任意管理手続

任意管理手続は、日本の民事再生手続及び会社更生手続に相当する再生型手続です。任意管理手続は、支払不能状態にある会社のうち再建できる可能性があるものに対して、管財人(administrator)が選任されることによって開始されます。管財人を選任することができるのは、(1)会社(会社の取締役会)、(2)会社に対して全資産担保権を有する債権者、及び(3)清算人のいずれかに限られます。選任された管財人は、債権者全体の利益のために行動し、会社の事業・財務情況を調査した上で、債権者集会において、①「会社再生契約(deed of
company arrangement
)を締結した上で会社を存続させること」、又は②「会社を清算すること」のいずれかを提案します。債権者集会において①が承認された場合、会社は管財人との間で会社再生契約を締結し、その後、会社は会社再生契約に従って経営されます。通常は、会社再生契約によって債権者の債権は減額、弁済期の延期等がなされます。②が承認された場合、管財人は清算人となり、会社の清算手続を進めることになります。

 

3.清算手続

清算手続は、日本の破産手続に相当する清算型手続です。清算手続では、清算人(liquidator)が選任され、清算人が会社の資産を処分し、換金した金銭を債権者に分配した上で、会社の登記抹消手続を行って会社を消滅させます。

支払不能状態にある会社の清算手続には、「強制清算(compulsory winding up)」と「任意清算(voluntary winding up)」の2種類があります。

「強制清算」は、会社(会社の取締役会)又は債権者が裁判所に対して申請を行い、これに対して裁判所が清算命令を出し、清算人を選任することによって開始します。

「任意清算」は、株主総会の特別決議によって会社の清算を決議し、清算人を選任することによって開始します。

選任された清算人は、債権者全体の利益のために行動し、会社の債権を回収し、会社の財産を現金化した上で、会社の債権者に対して債権額に比例して弁済を行ないます。任意管理手続の場合には手続開始後も管財人が会社の事業活動を継続しますが、清算手続の場合には会社の事業活動は原則として停止されます(清算人は会社の資産の売却又は清算に必要な限度でのみ会社の事業活動を行なうことができます)。

清算人は債権者への弁済を行なった後、清算結果について裁判所の命令を得るか(強制清算の場合)、又は株主総会及び債権者集会の承認を受けます(任意清算の場合)。これらの命令又は承認がなされた後で、ASICは会社の登記を抹消し、会社は消滅することになります。