オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点

前回はオーストラリアの倒産手続(外部管理)の概要について説明しましたが、今回はオーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点を以下に記載します。

 

1.外部管理の公示

会社が外部管理に入った場合、ASICに届出がなされ、当該会社のASIC登記情報には当該会社が外部管理に入っていることが表示されます。また、当該会社は、外部管理に入った後は、その作成する文書において、外部管理に入ったことを示す記載を会社名に併せて記載しなければなりません。これらによって当該会社と取引に入ろうとする者は当該会社が外部管理に入っていることを知ることができます。

 

2.DIP型手続

日本では、民事再生手続のように支払不能となった会社の取締役(経営陣)が当該会社の管理を行なう権限を保持したままで行なわれる倒産手続(一般にdebtor in
possession
DIP)型手続といわれます)がありますが、オーストラリアでは、上記のとおり、支払不能となった会社の倒産手続は外部の専門家が会社の管理権限を掌握した上で行なうことになりますので、DIP型手続をとることはできません。

 

3.外部管理者となるための資格

レシーバー、管財人又は清算人は、ASICに登録されている登録清算人(registered liquidator)でなければ就任することができません。登録清算人として登録されるためには会計の資格等が必要となるため、登録清算人の大部分は会計士となっています。このため、日本では管財人や清算人には弁護士が就任するのが通常ですが、オーストラリアでは会計士が就任するのが通常です。オーストラリアには、登録清算人を多く有し、外部管理に関する業務を専門として行っている会計事務所が多くあります。著名な会計事務所としては、PPB AdvisoryMcGrathNicolFerrier
Hodgson、Korda Mentha
があります。

 

4.破産取引阻止の義務

オーストラリアでは、会社の取締役は、会社が支払不能状態である、又はこれ以上債務を負うと支払不能状態に陥る可能性がある場合には、会社が更なる債務を負う行為(破産取引(insolvent trading)と呼ばれます)を行うことを阻止する義務を負っています。このため、会社が支払不能状態に陥った、又は支払不能状態に陥る可能性がある場合には、取締役は会社がこれ以上債務を負うことがないように、会社に対して倒産手続(任意管理手続又は清算手続)を開始しなければなりません。この破産取引阻止の義務に違反した場合、取締役は裁判所から民事制裁や刑事罰を課され、また、会社の破産により損害を蒙った無担保債権者の損害額を会社に支払うように命令される可能性があり、違反した場合の責任は非常に重いものとなっています。したがって、オーストラリアでは会社が支払不能の状態になったにもかかわらず倒産手続を開始せずに外部者と取引を継続するというケースは少ないといえます。

 

5.モラトリアム

任意管理手続が開始された場合、担保権を有する債権者は、原則として、担保権の実行を行うことができなくなります。これはモラトリアムと呼ばれ、各担保権者が個別に担保物を処分することによって会社の事業全体としての価値が損なわれることを防止するために認められています。レシーバーシップや清算手続ではモラトリアムは認められません。

但し、モラトリアムの例外として、全資産担保権を有する債権者は、管財手続の開始の通知を受け取ってから13営業日以内であれば担保権を実行することができることになっています。したがって、全資産担保権を有する債権者はこの期間内に担保権の実行(レシーバーの選任等)を決断する必要があります。

任意管理手続を行う場合、清算手続と異なり、管財人が会社の事業を継続することができ、かつ上記のモラトリアムによって担保権の行使を防止することができるため、会社の事業全体をGoing Concernとして売却したい場合には、清算手続ではなく任意管理手続が利用されます。

 

6.取引の否認

オーストラリアにおいても、清算手続において、清算人が支払不能状態にある際に行なった偏頗弁済等の一定の取引について否認をすることが認められています。但し、このような否認権を有するのは、清算手続における清算人のみであり、任意管理手続における管財人には否認権を有しません。任意管理手続は迅速に会社の再建手続を行なうことを目的としており、否認権の行使を認めるとその処理に時間がかかってしまい、再建手続が迅速に行なえなくなってしまうことが理由とされています。

 

7.レシーバーシップと任意管理手続の関係

会社に対してレシーバーと管財人の両方が選任されることは可能であり、実際にそのようなことはよくあります。例えば、全資産担保権を有する債権者が会社に対して管財人とレシーバーの両方の選任を同時に行なうことによってこのような事態は生じます(この場合、管財人とレシーバーは別の者が選任されなければなりません)。法律上、レシーバーの権限は管財人の権限に優越することが定められています。したがって、レシーバーはその選任の根拠となった担保権の対象である担保物に関して、管財人に優先して権限を行使することができます。すなわち、任意管理手続が行なわれているにもかかわらず、レシーバーは当該担保物を処分して、その代金をレシーバーを選任した債権者に対する債務の弁済に充てることができます。レシーバーの選任の根拠となった担保権が全資産担保権である場合、レシーバーは会社の資産全部に対して管理を行い、会社の経営をコントロールすることができます。管財人も会社の資産及び経営をコントロールする権限を有しますが、この権限はレシーバーの権限に劣後するため、実際にはレシーバーが会社の資産及び経営をコントロールすることができます。