倒産状態にある企業の買収方法

オーストラリアの会社が支払不能に陥り、任意管理手続が行われることになった場合、これまで事業を行ってきた会社であれば、いきなり清算手続(Winding Up)が開始されることは少なく、任意管理手続(Voluntary Administration)が開始されることになるのが通常です。会社に担保債権者がいる場合には、任意管理手続の開始と同時に担保債権者がレシーバーも選任することも多くあります。この場合、管財人とレシーバーが並存することになります。なお、任意管理手続やレシーバーシップに関する説明は、以前の2つの記事(「オーストラリアの倒産手続(外部管理)」や「オーストラリアの倒産手続(外部管理)について留意すべき点」)をご参照ください。

このような任意管理手続(及びレシーバーシップ)が開始された会社について、管財人(及びレシーバー)が会社の事業を第三者に売却し、その売却代金を会社の債権者に対する弁済に充てるといったことがよく見られます。そのような会社を買収する際の取引ストラクチャーとしては、「会社の株式の譲渡」と「会社の資産の譲渡」の2通りが考えられます。この2つのストラクチャーの特徴について、以下の一覧表にまとめました。 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

会社の株式の譲渡

 

 

会社の資産の譲渡

 

 

契約や財産の移転手続

 

 

会社が締結している契約(取引契約や雇用契約を含む)の当事者としての地位や会社が保有している財産(動産、不動産、知的財産権)の所有者としての地位について変更は生じないため、契約や財産の移転に関する手続は必要ありません。但し、取引に際して支配株主の変更が生じること(Change of Control)について契約相手方の同意が必要になる場合があります。

 

 

買収者は、事業譲渡契約書の中で特定された契約や財産のみについて会社から譲渡を受けることになります。契約の当事者としての地位や財産の所有者としての地位に変更が生じるため、契約や財産の移転に関する手続が必要になります。

 

 

 

 

許認可の移転手続

 

 

会社が有している事業に関する許認可についても原則として移転手続等は必要になりません(但し、移転手続が必要になる場合もあるため、許認可の根拠法を確認する必要があります)。

 

 

会社が有している事業に関する許認可についても原則として移転手続等が必要になります。

 

 

管財手続が契約に与える影響

 

 

管財手続開始前に会社が締結していた契約について管財人(又はレシーバー)は履行するか否かを選択することができ、履行を選択した場合には管財人(又はレシーバー)は同契約の履行について個人的に責任を負うことになります。したがって、管財人(又はレシーバー)が履行を選択したにもかかわらず履行を実行しなかった場合には、契約相手方は(会社ではなく)管財人(又はレシーバー)に対して損害賠償を行なうことができます。管財人(又はレシーバー)が契約の不履行を選択する場合、契約相手方は会社に対して契約違反に基づく損害賠償請求を行なうことができますが、この損害賠償請求権は管財手続の中で一般債権として扱われることになり、以下で説明する会社再生契約(Deed of Company Arrangement)(DOCA)の債務削減の対象となります。


 

買収者は、重要な契約が管財人(又はレシーバー)が不履行を選択したことによって契約相手方に解除されていないか等について確認する必要があります。

 

 

買収者は、事業譲渡によって承継しようとしている契約のうち重要なものが管財人(又はレシーバー)が不履行を選択したことによって契約相手方に解除されていないか等について確認する必要があります。

 

 

負債の承継について

 

 

会社の全ての資産及び負債を引き継ぐことになりますが、このうち負債についてはDOCAが債権者集会で決議され、会社によって締結されれば、この会社再生契約の内容に従って負債は削減されることになります(負債についてどの程度の削減を受けられて、残額をどのような条件で弁済するのか等を確認するために会社再生契約の内容を確認する必要があります)。

 

DOCAの中には債権者のための信託(Creditors’ Trust)を設定し、会社が負っている債務(DOCAに基づく削減後のもの)及び会社が有している財産(弁済原資)をこの信託に移転してしまうことを規定しているものも多く見られます。この場合、債権者は債権の弁済を会社からではなく、この信託から受けることになります。このCreditors’ Trustのスキームを利用することにより、会社の債務及び財産を信託に移して会社のバランスシートをきれいにし、また、DOCAを早急に終了させることができます。このことにより買収者はバランスシートがきれいになった、任意管財手続が終了済の会社を購入できることになります。

 

 

買収者は、会社の負債については、特別に合意をしない限り承継しません。したがって、管財人(又はレシーバー)は事業譲渡を行なうためにDOCAを締結して債務を削減する必要はありません。管財人(又はレシーバー)は買収者から受領する事業譲渡の代金を会社の債権者に対する弁済に充てることになります。

 

 

取引にかかる税金

 

 

株式の譲渡には原則としてStamp Duty(印紙税)やGoods and Services Tax(消費税)は課されません。

 

 

不動産等の資産の譲渡には原則としてStamp Duty(印紙税)が課されます。消費税(Goods and Services Tax)は、税法上において取引が個々の資産の譲渡ではなく、事業の譲渡(Business Transfer)であるとみなされれば課されません。