AssignmentとNovationの違い

オーストラリア法において、ある者が契約上の権利や義務を契約当事者以外の者に対して移転する場合には、Assignment(譲渡)とNovation(更改)という2つの方法があります。

1.Assignment

Assignmentは、契約上の権利を、その性質を変えずに同一性を保ったまま、別の者に移転する行為です。したがって、債務者が有していた債権者に対する抗弁等はそのまま譲受人に引き継がれます。Assignmentは、法律上は、元の債権者が債務者に対する書面通知を行なうだけで、債務者の同意を得なくとも行なうことができます(Civil Law (Property) Act 2006 (Cth)205条、Conveyancing Act 1919(NSW)12条、Property Law Act 1958 (VIC)134条、Property Law Act 1974 (QLD)199条等)。但し、契約書上、権利の譲渡(Assignment)について債務者の同意が必要であることが規定されている場合には、債務者の同意が無ければ行なうことはできません。なお、Assignmentが行われた場合、元の債権者は、契約上の権利を譲渡した後も、引き続き同契約上の義務を債務者に対して負うことになります(契約上の権利の譲渡は行なわれるが、契約上の義務の譲渡は行なわれない)。

2.Novation

Novationは、譲渡人(元の債権者)、譲受人(新しい債権者)及び債務者の三者間でなされる合意により、譲渡人と債務者との間の元の契約を消滅させ、譲受人と債務者との間で新しい契約を成立させる行為です。これにより譲渡人は債権者ではなくなり、譲受人は新しい債権者となります。Novationには必ず債務者の同意が必要であり、譲受人が取得する権利・義務の内容は(元の債権者に対する抗弁等が承継されるか否かも含めて)Novationに関する契約書の中で定められます。

3.日本法との相違

日本法と異なり、オーストラリア法のAssignmentでは、契約上の義務を譲渡することはできませんので、契約上の義務を第三者に移転させたい場合には、Novationの方法によることになります。例えば、オーストラリアにおいて、金融機関の間でローン債権の売買を行なう場合、売主、買主及び債務者の三社間でNovation Deedを締結して行うことが多いといえます。また、A社がB社の事業を買収した場合、B社の事業上の契約(従業員との雇用契約を含む)をA社に移転させることになりますが、この移転に用いられるのは通常はNovationであり、Assignmentではありません。Assignmentが用いられる場合もありますが、その場合には、売主が買主に契約上の権利をAssignmentにより譲渡した上で、売主に残る契約上の義務を買主が売主に代わって履行する旨の取決めがなされます。

日本では、契約上の義務の譲渡が可能であるため、ローン債権や契約の譲渡の際には、Assignmentが用いられ、Novationが用いられることは皆無ですが、オーストラリアではNovationが用いられることが多いといえます。なお、オーストラリア法上、黙示のNovationも認められるため、契約相手方が事業譲渡の通知を受けた後で、買主に対して契約上の義務を履行した場合等(例:買主の口座に代金支払を行う等)、には黙示のNovationがあったものとすることもできます。