プロジェクト案件における担保権の設定及び実行(1)

オーストラリアのインフラ・不動産開発プロジェクトにおけるファイナンスにおいては、プロジェクトの主体(Entity:権利義務の帰属主体)となるSPV(会社又は信託)が設立され、当該SPVがプロジェクト資産を取得・保有し、建設業者等の各種外部業者との契約を締結し、金融機関等からローンの提供を受ける主体となります。

 

(1)担保物

プロジェクトの主体であるSPVに対してローンが提供される場合、ローン提供者は以下の3つの担保権を設定するのが一般的です。

ASPVの全資産に対する担保権

BSPVの保有する不動産に対する抵当権

CSPVの親会社が保有するSPVの株式又はユニットに対する担保権

Aに関して、日本と異なり、オーストラリアでは、担保権設定者の全ての資産(将来取得する資産を含む)を対象として一括して担保権を設定すること(全資産担保と呼ばれます)が可能であり、また、一般的に行われています。この点、日本では、SPVの資産を担保に取ろうと思った場合、SPVの有している債権、動産等に個別に担保権を設定する必要があります。全資産担保は、動産担保登記簿(Personal Property Securities Register)に登記することによって対抗要件を具備します。

Bに関して、Aの全資産担保の例外として、不動産担保については不動産登記簿に登記する必要があり、当該登記手続に必要となるため、全資産担保契約とは別に不動産抵当権設定契約を作成し、不動産抵当権を不動産登記簿に登記することになります。

Cに関して、SPVの株式又はユニットを担保に取ることにより、SPVの株式又はユニットの売却という担保実行が可能となります。株式・ユニットに対する担保権の設定は動産担保登記簿に登記することによって対抗要件を具備しますが、これだけでは不十分であり、株式・ユニット証書と譲渡証書まで取得して支配をしておく必要があります。詳細については、以前の記事(「動産担保法の各論」の「4. 担保の優先順位」の(2)担保物の支配)をご参照ください。

 

(2)担保信託(Security Trust

この担保信託の項目は、特にローンがシンジケートローンによって行われる場合の話になりますが、担保権の取得主体として、レンダーは担保信託(Security Trust:担保権の保有・管理・実行を行う信託)を設定し、担保信託受託者(Securitee Trustee:アレンジャー銀行の関連会社又は信託受託の専門業者であることが多い)に担保権を取得させて、担保信託受託者を通じて担保権の管理・実行を行うことが多いといえます。

担保信託を利用することによって、担保権の保有・管理・行使を担保信託受託者に一元化できることや、ローン債権の譲渡(ローン債権者の変更)によって担保権者の変更が必要にならないこと等のメリットがあります。

レンダーは担保信託契約(Security Trust Deed)の受益者として、担保信託受託者がレンダーのために保有する当該担保権の利益を受けることになります。レンダー(受益者)の担保信託受託者に対する権利(受益権)について特に第三者への対抗要件を備えることはありません。担保信託受託者は借入人その他の担保設定者と担保権設定契約を締結します。これにより担保信託受託者は借入人その他の担保設定者の財産に対して担保権を設定し、担保信託契約の受益者であるレンダーのために、レンダーの指示に従って信託財産である担保権を保持・管理します。

動産担保登記簿及び不動産登記簿では、担保信託受託者の名義で担保権が登記されることになります。

レンダーは、担保信託契約に従って、担保信託受託者に対して担保権の実行等の指示を出すことになります。通常は担保信託受託者は、レンダーの多数決(ローン金額の過半数や3分の2超など)による指示に従うようになっています。

 

長くなったので次回に続きます。