メザニンファイナンス(Mezzanine Finance)

オーストラリアではインフラ・不動産開発プロジェクトに対するファイナンスにおいて日本の金融機関が大きな役割を果たしています。オーストラリアは政治体制・法制度が安定しており、日本よりも多くの金利がとれることから日本の金融機関にとって魅力的な市場となっています。

オーストラリアのインフラ・不動産開発プロジェクトの資金提供源は、大まかにいうと、(1)エクイティ、(2)シニアローン、(3)メザニンローンの3つが挙げられます。

「エクイティ」は、プロジェクトの実行主体(ディベロッパーなど)が提供するもので、プロジェクトのEntityとなるSpecial Purpose Vehicle(SPV)へエクイティ出資(SPVが会社であれば株式引受、SPVが信託であればUnit(信託受益権)の引受)という形で提供されます。

「シニアローン」は、主に金融機関(銀行、保険会社など)が提供するもので、プロジェクトのEntityであるSPVに対する貸付という形で提供されます。大規模なプロジェクトで多額の貸付が必要になる場合には、シンジケーション方式により複数の金融機関によって提供されるのが一般的です。

「メザニンローン」は、シニアローンと同じく、プロジェクトのEntityであるSPVに対する貸付という形で提供されることが多いですが、回収の優先度ではシニアローンに劣後し、シニアローンが全額回収されるまで返済を受けることはできないのが通常です。ただ、その分だけ、メザニンローンの金利はシニアローンよりも大幅に高いのが通常です。

イメージを持ちやすくするための例としては、不動産開発プロジェクトについて、プロジェクト全体に要する資金の20%をディベロッパーがエクイティで提供し、60%を金融機関がシニアローン(金利5%)で提供し、残りの20%をファンドがメザニンローン(金利18%)で提供するといったものが考えられます。

エクイティとシニアローンでプロジェクト資金の全額をカバーできればよいのですが、最近では、オーストラリアの金融機関のプロジェクトの評価や貸付審査が厳しくなっているため、また、ディベロッパーの資金状態に余裕があまりなくなってきている事情もあり、エクイティとシニアローンではプロジェクトに要する資金をカバーできず、メザニンローンを第三者の資金提供者(ファンド、ノンバンクなど)からメザニンローンを受けて不足する資金をカバーする必要性が高くなっています。また、このメザニンローン市場の拡大に目をつけた多くのオーストラリア国内外のファンドやノンバンクがメザニンローン市場に参入してきています。

メザニンローンには様々な方式があります。上記では、メザニンローンは、プロジェクトのEntityであるSPVに対する貸付という形で提供されることが多いと書きましたが、プロジェクトのEntityであるSPVの親会社に対する貸付という形で提供されることもあります。この場合、SPVが自らが借り入れているシニアローンを全額弁済して親会社に対して配当ができるようになるまでSPVの親会社はメザニンローンを弁済できないことになるため、ストラクチャー上、親会社が借りているメザニンローンはSPVが借りているシニアローンに劣後することになります(Structural Subordinationと呼ばれます)。さらに、別の形式としては、SPVの消却優先株式・ユニット(Redeemable Preference Shares)の発行を引き受けるという形もあります。ただ、これらのStructural SubordinationRedeemable Preference Sharesの方式は、メザニンレンダーの保護の観点からは、SPVに対する貸付方式には劣ります。

メザニンローンの最も一般的な形式は、上記のSPVに対する貸付の方式であると思います。この場合、メザニンローンの貸付契約・担保契約は、シニアローンの貸付契約・担保契約とほぼミラーで作成することが多いです。契約書の内容(コベナンツ、デフォルト事由等)がシニアローンとメザニンローンで異なると借入人(SPV)の立場からするとローンの管理が煩雑となるためです。ドキュメンテーションでは、まず借入人とシニアレンダーがシニアローンの貸付契約・担保契約を作成し、ある程度固まったところで、それらをベースにして借入人がメザニンレンダーとメザニンローンの貸付契約・担保契約のドキュメンテーションを始めることが多いといえます。

シニアレンダーはSPV(借入人)の全ての資産を担保に取るのが通常ですが、メザニンレンダーもシニアレンダーと同じ担保を取得します。ただ、担保からの回収において、メザニンレンダーはシニアレンダーに劣後します。この優劣関係の定め方として、シニアレンダーとメザニンレンダーが共同で担保権を設定・保有して、担保物から弁済を受ける順位についてシニアレンダーとメザニンレンダー間の合意で定める方法と、シニアレンダーとメザニンレンダーがそれぞれ独自に担保権を設定・保有して、シニアレンダーの担保権がメザニンレンダーの担保権に優先するように登記する方法があります。

シニアレンダーとメザニンレンダーの間では債権者間協定書(Intercreditor Deed)を締結して債権の優劣や担保権の行使方法等について定めるのが通常です。一般的には、借入人(SPV)がデフォルトした場合、シニアレンダーが主導権を持って担保権の行使・債権回収を行い、メザニンレンダーはほとんど口出しできないことになります。この点に関して、メザニンレンダーは、債権者間協定書において、借入人(SPV)がデフォルトした際にシニアレンダーからシニアローンを買い取ることができる権利を定めるように要求してくるのが一般的です(メザニンレンダーはシニアローンを買い取ることによって、シニアローンとメザニンローンを一括して回収するために担保権を行使できるようになります)。