雇用契約におけるJob Description(職務範囲)について

豪州の雇用契約では従業員のJob Description(当該従業員が行うべき業務)(Position Descriptionとも呼ばれます)について比較的詳細に定めてあるのが通常です。従業員の評価はこのJob Descriptionに照らして判断されます。Job Descriptionに記載されている業務を適切に実行していれば従業員は雇用契約上で求められる職務遂行義務を果たしていることになりますし、そうでなければ職務遂行義務を果たしていないとして懲戒処分の対象となりえます(最悪の場合には解雇処分を受けます)。

Job Descriptionを変更する際には、従業員の同意を得るか、又は変更が合理的かつ業務の内容を根本的に変えないものである必要があります。従業員の同意を得ずに、業務の内容を根本的に変えることになるJob Descriptionの変更を雇用主が行った場合、当該従業員を整理解雇(Redundancy)又は違法な解雇を行ったものとみなされる可能性があります。

たとえば、Job Descriptionに受付業務を担当すると記載されている従業員に対して、会計帳簿の管理業務を行わせることは業務の内容を根本的に変えるものとして認められません(整理解雇又は違法な解雇とみなされます)。他方、同じ従業員に対して、受付業務で必要になる会議室予約システムの使い方の習得を命じることはJob Descriptionに記載されている受付業務の範囲内として認められると考えられます。

日本では、従業員の業務範囲を雇用契約等で詳細に定めることは少なく、従業員は会社が命じた業務であれば何でも柔軟に対応するのが一般的となっています(たとえば、営業を担当していた者を法務に配置換えする等)。この日本の感覚で豪州で従業員に対して担当業務の変更を命じることは認められませんので注意が必要です。

雇用契約において、雇用主はビジネスの状況に応じて従業員のJob Descriptionを変更できる旨の規定が入れておくことにより、Job Descriptionの変更について従業員の事前の同意があったという主張を行うことは可能です。ただし、このような場合であっても、このような主張が認められるかについては不確実性が残るため、雇用主が従業員のJob Descriptionを一方的に変更することは極力避けるべきであり、従業員と事前に協議を行い、可能な限り従業員の同意を得るようにするべきです。