従業員の解雇について

(1)期間の定めのある雇用契約

豪州法上、固定期間の雇用契約(予め定めた一定の時期に雇用が終了するタイプの契約)であれば、固定期間の満了により雇用契約は終了します。この期間の定めのある従業員は、期間満了に伴い、解雇予告(Notice of Termination)や整理解雇手当(Redundancy Pay)を受ける権利はありません。ただし、期間の定めのある契約が複数回更新されることにより、期間の定めのない契約として扱われる可能性がありますので、この点は留意する必要があります。

(2)期間の定めのない雇用契約

期間の定めのない雇用契約を従業員の同意なしに雇用主が終了させる場合、①雇用契約違反に基づく解雇、及び②整理解雇(Redundancy)の2つがあります。

① 雇用契約違反に基づく解雇

雇用契約違反に基づく解雇の例として、従業員が不正行為(Misconduct)を行ったため懲戒解雇されるケースとやパフォーマンス(Poor Performance)により解雇されるケースがあります。いずれについても解雇に到るまでの手続が就業規則等において定められているのが通常ですが、一般には以下のような手順を経ることが見られます。

1.従業員に対してShow Cause Letterを出し、雇用主が従業員の不正行為・低パフォーマンスについて懸念を有していること、また、当該従業員の弁明や改善が不十分であれば、雇用主が所定の手続をとった上で当該従業員の雇用を終了させることを伝えます。

なお、上記のShow Cause Letterと並行して、雇用主は従業員に対して合意に基づいて退職をする機会を与えることも行われます。当該従業員が合意すれば以下の2以降の手続を経ずに当該従業員の雇用を終了させることができます。

2.雇用主は、当為従業員に対して不正行為・低パフォーマンスについての合理的な証拠を示し、当該従業員に弁明の機会や改善の機会を与えます。弁明や改善が不十分である場合には、雇用主は解雇(又はその他の懲戒処分)の決定を行うことになります。この手続は複数回にわたって行われることも多くあります(3ヶ月ごとに当該従業員の行為・態度・パフォーマンスをチェックし、当該従業員と改善策を協議し、それでも改善が見られない場合に解雇の決定を行うなど)。

3.雇用主は解雇の決定を行った上で、当該従業員に対して解雇の通知を行います。解雇の通知に関して、法令上、重大な不正行為(Serious Misconduct)による懲戒解雇の場合を除き(Fair Work Act 2009Cth)第123(1)(b)Fair Work Regulations 2009 (Cth)1.07条)、一定期間の事前通知(解雇予告:Notice of Termination)が要求されています(Fair Work Act 2009Cth)第117条)。この法令で定める通知期間は最低限の通知期間であり、雇用契約や労使裁定(Modern Award)、労使協約(Enterprise Agreement)においてこれよりも長い通知期間が定めてある場合には、その長い方の通知期間が適用されます。雇用契約において通知期間を定めていない場合、判例法上、従業員は雇用主からの解雇に際して「合理的な通知(Reasonable Notice)」を受ける権利があり、合理的な通知(Reasonable Notice)の期間が法令上の通知期間又は労使裁定や労使協約に定める通知期間よりも長い場合には、合理的な通知の期間に従うことになります。「合理的な通知」とは、従業員の年功、勤続年数、年齢、給与、転職の容易性等を考慮して決められます。一般に、年次の高い長期雇用された従業員の場合は、「合理的な通知」も相当長期のものが必要になる可能性があり、場合によっては6ヶ月又は12ヶ月となる可能性もあります。

雇用主は通知期間分の給料を支払うことにより(Payment in Lieu of Notice)、通知期間の終了を待たずに従業員の雇用を終了させることもできます。

② 整理解雇

整理解雇(Redundancy)は従業員が担当していた職務が雇用主にとって必要とされなくなる場合に発生します(Fair Work Act 2009Cth)第119条)。二名の従業員が担当していた職務が一名の従業員でも担当できるようになった、又は他の従業員が兼務できるようになったといった場合でも整理解雇は発生します。

整理解雇を行う場合、雇用主は当該従業員に対して整理解雇手当(Redundancy Payment)を支払う義務があります(Fair Work Act 2009Cth)第119条)。

整理解雇は雇用契約や就業規則、労使裁定(Modern Award)や労働協約(Enterprise Agreement)に定める手続にしたがって行われなければなりませんが、典型的には以下のような手順で行われます。

1.雇用主は、当該従業員の職務が不要になったことを明確に証明する論拠(ビジネスケース)を固めます。

2.整理解雇の通知を出す前に(23週間前に)、雇用主は当該従業員と協議を開始します。この協議では整理解雇の可能性について触れた上で、その他の選択肢がないかについても誠実に議論します。

3.整理解雇の通知を出す少なくとも1週間前までに、雇用主は当該従業員と最終の協議を行い、当該従業員のフィードバックを聞いた上で、他に選択肢が無ければ、当該従業員の職務がRedundantになることを知らせます。

4.雇用主が当該従業員に対して追加の補償金等を支払う場合には、雇用主は当該従業員との間でDeed of Settlementを締結して雇用終了の条件を明確に規定します。

5.当該従業員に整理解雇の通知を出して雇用終了日と当該従業員に支払われる補償金等の確認を行います。

 

【20201110日追記:雇用契約書には、「雇用者は従業員に対して、●ヶ月の事前通知を出すことによって雇用契約を終了することができる」旨が規定されているのがよく見られます。しかし、この規定は雇用を終了させる場合に必要となる事前通知の期間を定めているにすぎず、●ヶ月前の事前通知を出せば如何なる理由によっても解雇できることを定めたものではありません。雇用者が合理的な理由なしに従業員の雇用を終了させる行為は、Unfair Dismissal(不当な解雇)に該当し、豪州労働法において禁止されています(Fair Work Act 2009 (Cth)379条以下)。不当な解雇に該当しないためには、上記(2)で述べたとおり、①雇用契約違反に基づく解雇、又は②整理解雇(Redundancy)である必要があります。また、上記で述べたとおり、適切な手続を経て解雇が行われる必要があります。Unfair Dismissalの保護を受けることができる従業員は、雇用者の下で6か月以上(雇用者が小規模事業者の場合は12ヶ月以上)勤続した従業員であって、かつ、労使裁定又は労使協約が適用されず、給与金額がHigh Income Threshold20201110日時点において年間153,600豪ドル)未満である従業員になります(第382条)。しかし、豪州労働法においてUnfair Dismissalの保護を受けない従業員についても、上記のような適切な理由に基づき、適切な手続を経なければ、解雇は行わないのが通常です。理由を明確にせずに従業員を解雇した場合、豪州労働法において違法とされている理由に基づいて解雇した(たとえば、性別などによる差別や労働組合の組合員であることを理由とした解雇など)という主張が従業員からなされたり、裁判所等からそのような認定がされるリスクがあるためです(裁判実務において、従業員の解雇が違法な理由に基づくものでなかったことを立証する責任は雇用者側に課されており、雇用者が立証に失敗すると解雇が違法な理由に基づくものであったことが推定されます)。Unfair Dismissalに該当せずとも、違法な差別や労働法上の権利を行使したことを理由とする解雇その他の不利益行為は、豪州労働法において違法行為となり、禁止されています。】