COVID-19の影響によるオーストラリア外資規制の強化

【2021年1月10日追記:本記事に記載されているオーストラリアの外資規制の強化措置は、COVID-19に対応するための一時的な措置であり、2021年1月1日に終了しました。したがって、本記事に記載されている外資規制の強化措置は、2021年1月1日以降は適用されなくなっています。ただし、2021年1月1日からは、オーストラリアの外資規制に新しいNational Security Testが導入されています。National Security Testについては、こちらの記事をご参照ください。】

昨日2020年3月29日に、日本企業の対豪投資に大きな影響を与える法制度の変更が豪州連邦政府から発表されました。日本を含む外国企業の対豪投資について、外資規制当局(Foreign Investment Review Board:FIRB)の許可が必要になる金額基準(monetary threshold)がゼロになり、FIRBの許可判断期間が30日から6ヶ月に伸びることになりました。

この新しい規制は、2020年3月29日午後10時30分に効力が発生しましたので、この時点以降に締結される契約に適用されます。

豪州政府のウェブサイト:https://ministers.treasury.gov.au/ministers/josh-frydenberg-2018/media-releases/changes-foreign-investment-framework

これにより日本企業による豪州のM&A及び不動産投資は、元々は金額基準を満たさず許可が免除されていた小さな案件であっても、FIRBへの許可申請が必要になり、許可取得に最長で6ヶ月かかることになります。現在、豪州企業のM&Aや豪州の不動産投資案件を進めている、又は検討されている方々はご注意ください。

例えば、日本企業が小さな豪州の企業の100%買収をする場合、又は、日本企業が豪州のオフィス不動産を取得しようとする場合、これまでであれば買収金額が金額基準を満たさずFIRBの許可が必要なかったところ、今回の変更によりFIRBの許可の取得手続が必要になり、申請料と弁護士費用を合わせて数万豪ドルがかかり、買収のスケジュールも大きく遅れることになります。

Australian Financial Reviewの記事によると、COVID-19により困窮した(distressed)豪州の会社や資産が外資に安値で叩き売り(fire sale takeovers)されるのを防ぐための措置だそうです。

ただ、他方で、FIRBは、オーストラリアの企業や雇用を直接的に保護し、サポートするための投資であれば、FIRBの申請が優先的に審査されて素早く承認を出すと述べているので(こちらをご参照)、FIRBの申請の際に上記のように主張できれば、FIRBの承認を比較的早急に得ることができる可能性があります。

今回の変更では金額基準の要件は変更されていますが、その他のFIRBの要件は変更されていません(金額基準以外のFIRBの要件については、以前の記事を参照)。したがって、外国企業(外国政府投資家を除く)が単独で豪州企業の株式を20%未満取得する取引はFIRBの許可は必要になりません。また、外資買収法に定められているFIRBの例外(exemptions)もこれまで通り適用されると考えられます(以前の記事で紹介した不動産ファンドの持分取得にかかるexemptionなど)。

FIRBの規制の対象となる豪州の不動産取得には、豪州の不動産の期間5年(オプションによる延長期間を含む)を超える賃借権を取得することも含まれますので(以前の記事の「(12)FIRBの承認」の箇所を参照)、新たに期間が5年を超えるオフィスの賃貸借契約を締結しようとしている日本企業(又は日本の資本が20%以上入っている豪州企業)はFIRBの許可の取得手続が必要ということになります。特にすでにオーストラリアに進出していて、オフィスリース契約を更新しなければならない企業にとって、リース契約更新のためのFIRBの許可取得に6ヶ月もかかるというのは現実的ではありません。この点は、更新する期間を5年以下にするなどの対応が考えられます。

【2020年11月9日追記:その後に更なる法改正がなされて、2020年9月4日からは、既存の商業物件(オフィスや店舗)の賃貸借契約の更新については、基準金額が元に戻されることになり、金額基準を満たしていなければ、期間が5年超であっても、FIRBの承認は必要ないことになりました。既存の商業物件の賃貸借契約の更新についてのみ例外的に金額基準が元に戻されたのであり、その他の行為については金額基準はゼロのままです。】