オーストラリアの外資規制の変更(National Security Testの導入)

現在オーストラリアでは、国家安全保障を強化する観点から、外資規制(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth))を改正することが予定されています。

改正法案(Exposure Draft)は、こちらのウェブサイトでみることができます。

以前のブログ記事で説明したとおり、現行の外資規制では、「外国人」が「オーストラリアの会社、事業、土地等に対する権益を取得する行為」をする場合に、連邦財務大臣(FIRB)に届出を行い、その承認を得ることが必要になります。FIRBが承認をするか否かの判断の際には、対象行為が「オーストラリアの国益(National Interest)に反するか否か」という基準に基づいて判断を下します。このオーストラリアの国益が何であるかについては法令上定義されておらず、国益に反するか否かの判断には連邦財務大臣に広範な裁量が与えられています。国益に反するか否かの考慮要素としては、国家安全、競争、オーストラリア政府の政策、経済・コミュニティへの影響、投資家の属性等が挙げられています。これはNational Interest Testと呼ばれています。

今回の法改正では、この既存のNational Interest Testを残しつつ、National Security Testという国家安全のみを考慮要素とした新しい規制が導入されます。この法改正は本年中に立法化され、来年(2021年)11日から施行される予定です。その際には、今年(2020年)329日に導入された一時的な外資規制強化(FIRBの承認が必要になる金額基準(monetary threshold)がゼロになり、FIRBの審査期間が最長6ヶ月に延長された 詳細については以前のブログ記事をご参照)は撤廃される予定です。すなわち、来年11日からは、National Interest Testの金額基準と審査期間が元に戻り、その上で、追加で新しいNational Security Testが導入される、ということになります。

今回導入されるNational Security Testの主な内容は、以下の1~3のとおりです。

1.Notifiable National Security Action

「外国人」(その定義は以前のブログ記事を参照)が以下の(A)又は(B)の「国家安全に関わる通知行為(Notifiable National Security Action)」を行う場合には、連邦財務大臣(FIRB)に通知を行い、その承認を得ることが必要になります。

(A)「National Security Business」に対して「Direct Interest(直接的権益)」を取得する行為、又は「National Security Business」を新たに開始する行為

「National Security Business」とは、以下の事業を指します(Foreign Acquisitions and Takeovers Regulations 2015 (Cth)の改正法案の10A 条)。

  • Security of Critical Infrastructure Act 2018 (Cth)又はTelecommunications Act 1997 (Cth)によって規制されている事業(電気・ガス・水道、港湾、電気通信など)
  • 重大な軍事・諜報用の製品・技術・サービスの開発・製造・供給を行う事業
  • 豪州政府に機密扱いを受けている情報を取り扱う事業
  • 豪州の軍隊・国防省・国家諜報機関が収集した軍事・諜報要員の個人情報(アクセスを許せば豪州の国家安全に影響を及ぼすもの)を取り扱う事業
  • 豪州の軍隊・国防省・国家諜報機関の委託を受けて軍事・諜報要員の個人情報(アクセスを許せば豪州の国家安全に影響を及ぼすもの)を収集し、又は取り扱う事業

「Direct Interest」とは、①事業/会社/信託の10%以上の権益を取得すること、②事業/会社/信託の5%以上の権益を取得し、取得者及び当該事業/会社/信託に関する法的なアレンジメントがとられること、又は③事業/会社/信託の経営及び支配若しくは方針決定に影響を及ぼし、又は参画できるようになること(取得する権益の割合にかかわらない)、を意味します(現行のForeign Acquisitions and Takeovers Regulations 2015 (Cth)16条)。

(B)①国防に使用するために連邦政府が所有又は占有しているオーストラリアの不動産、②国家諜報機関が権益を有しているオーストラリアの不動産(当該外国人が国家諜報機関の当該権益を認識していることが合理的に期待される場合に限る)、③連邦財務大臣が別途法令で指定する地域に含まれるオーストラリアの不動産、に対する権益を取得する行為

既存のNational Interest Testにおける「重大行為(Significant Action)」又は「通知行為(Notifiable Action)」と異なり、Notifiable National Security Actionには金額基準はないため、対象行為の金額的な大きさにかかわらず通知が必要になります。

2.Reviewable National Security Action:Call-in Power

「外国人」が以下に定義される「審査可能行為(Reviewable National Security Action)」を行う場合において、連邦財務大臣(FIRB)が当該行為が国家安全上の懸念を生じさせると考えるときは、当該行為について国家安全の観点から審査を行うことができるようになります(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)の改正法案の37C条)。この連邦財務大臣(FIRB)の審査を行う権利は、Call-in Powerと呼ばれます。

「審査可能行為(Reviewable National Security Action)」とは、既存のNational Interest Test又は新しく導入されるNational Security Testに基づいて連邦財務大臣(FIRB)に対する通知・承認が必要とならない行為(すなわち、既存のNational Interest Testにおける「重大行為(Significant Action)」又は「通知行為(Notifiable Action)」に該当せず、かつ、新しく導入されるNational Security Testにおける「国家安全に関わる通知行為(Notifiable National Security Action)」にも該当しない行為)であって、以下のいずれかに該当するものをいいます(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)の改正法案の37B条)。

  • オーストラリアの事業又はオーストラリアの事業を行っている会社/信託に対してDirect Interestを取得する行為
  • オーストラリアの不動産に対する権益を取得する行為
  • オーストラリアの事業を行っている会社/信託から証券の発行を受ける行為
  • オーストラリアの事業との間で重大な契約を締結又は終了する行為
  • オーストラリアの会社・信託の運営・役員に影響を及ぼせるような契約を締結する行為
  • オーストラリアの会社・信託の役員に影響を及ぼせるように定款・信託契約を変更する行為
  • オーストラリアの事業を開始する行為

ただし、連邦財務大臣(FIRB)は、Reviewable National Security Actionが行われてから10年経過した場合には、審査を行うことはできなくなります(同37C (2))。

また、Reviewable National Security Actionに該当する行為を行う者が、当該行為について任意で事前に連邦財務大臣(FIRB)に対して通知を行ったり、連邦財務大臣(FIRB)から承認を受けていた場合、若しくは、一定の期間内の一定の範囲内の行為について事前に連邦財務大臣(FIRB)から包括的な承認(Exemption Certificate)を得ていた場合には、連邦財務大臣(FIRB)は、Reviewable National Security Actionの審査を行うことはできません(同37C(4))。

3.Last Resort Power

 連邦財務大臣(FIRB)は一度審査を行い、承認をした行為について、以下のいずれかの事情がある場合には、再度、国家安全の観点から当該行為を審査することができるようになります(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975 (Cth)の改正法案の73A条)。

  • 承認を得る際に、申請者が重大な点において虚偽又は誤解を招く情報を提供し、又は提供されなければ重大な点において虚偽又は重大な誤解を招くであろう情報を提供していなかった場合
  • 承認が出された後、申請者の事業、ストラクチャー若しくは組織又は申請者の活動内容について重大な変更があった場合
  • 承認が出された後、状況やマーケットに重大な変更があった場合

この連邦財務大臣(FIRB)の再審査を行う権利は、Last Resort Powerと呼ばれます。

連邦財務大臣(FIRB)は、再度の審査の結果、国家安全の観点から必要があると判断し、かつ、当該行為を行った者と国家安全上の懸念を助教するために誠実に協議を行い、かつ、その他の規制制度では国家安全上の懸念を除去できない場合には、当該行為について新たな条件を課したり、既存の条件を変更したり、又は当該行為の承認を取り消して当該行為が行われる前の状態に戻すように命令することができます。

 

今回導入されるNational Security Testの主な内容の説明は以上のとおりです。

改正法案はまだ審議段階にあるため、今後法案として成立するまでにNational Security Testの内容が変更される可能性がある点には留意ください。