会社の契約締結、株主総会・取締役会、会議通知、議事録等の電子化

これまでオーストラリアの会社法では、会社が会社法に基づいて契約書に署名をする場合には契約書面に物理的に署名をしなければならず、株主総会や取締役会は物理的に参加者が集合して開催をしなければなりませんでした(一部の参加者が電話やビデオ会議で参加することは可能)。しかし、コロナウィルスの影響を受けて、人や物の物理的な移動が困難になったことから、連邦政府は20205月にCorporations (Coronavirus Economic Response) Determination (No. 1) 2020(以下「臨時措置法」といいます)を制定し、会社による契約書の署名や株主総会や取締役会の開催を電子的な方法で行えるように変更しました。この変更はコロナウィルスの影響に対応するための一時的な措置とされており、2021年3月まで継続することになっています。

この電子的な方法による会社による契約書の署名や株主総会や取締役会の開催が非常に効率的であると利用者に好評であったため、連邦政府は会社法を改正し、この臨時措置法による変更を永続的なものにする予定です。

この点に関する会社法の変更案(Exposure Draft)はこちらのウェブサイトでみることができます。

具体的な変更の内容は以下のとおりです。

1.会社による契約書の電子的な方法による署名

オーストラリアの会社が契約書に署名する場合、会社法127条に従って、その会社の取締役2名(又は取締役1名と秘書役1名の合計2名)が契約書に署名するのが一般的です(この点に関しては、以前の記事を参照ください)。

これまでは会社法127条に従った署名方法とするためには、取締役2名(又は取締役1名と秘書役1名)が契約書の同一の書面(物理的に一つの書面)に署名をしなければならない(そうでなければ少なくともその署名の有効性に疑義が生じる)とされてきましたが、会社法の改正法案では、各取締役(又は秘書役)が契約書の別々の書面(内容は全く同一だが物理的に異なる書面)に署名をしても構わない(いわゆるSplit Executionでも問題がない)ことが明確にされています(会社法の改正法案の127条(3A)及び(3C))。ただし、各書面は契約書の内容の全部を含んでいる必要があります(したがって、契約書の署名ページのみを印刷して署名することは認められません)。この法改正により、契約書の物理的な書面を署名のために、異なる場所にいる取締役(及び秘書役)の間で回す必要はなくなることになります。

また、取締役(又は秘書役)が物理的な署名(いわゆるwet ink signature)ではなく電子的な方法で署名をすることも会社法127条に従って署名方法として認められることになりました(会社法の改正法案の127(3B))。これまでは電子的な方法による署名が会社法127条に従った署名方法として認められるか否かについて議論が分かれていましたが、この法改正により、電子的な方法による署名は会社法127条に従った署名方法として認められることが明確になりました。ただし、その署名方法において、署名者を明示し、署名者の署名する意思を示し、かつその署名方法が信頼のおけるものである必要があります。この署名方法に関する要件は、PDFの契約書にタッチスクリーンを使用して署名をしたり、DocuSignAdobe Signなどの電子署名ソフトウェアを使用して署名することによって一般的には満たされると考えられます。

なお、上記はオーストラリアの会社による契約書の締結に関するものであり、個人(自然人)や外国(オーストラリア以外の国)の会社による契約書の締結には適用されません。

2.株主総会や取締役会の電子的な方法による開催

オーストラリアの会社の株主総会と取締役会についても、電子的な方法による開催が可能となっています。これまでも参加者が物理的に集合して開催されている株主総会や取締役会に一部の参加者が電話やビデオ会議などによって参加することは可能とされていましたが、今回の法改正では、物理的な開催場所を設けることなく、全ての参加者が電子的な方法(電話やビデオ会議など)によって参加する方法で開催することが可能となります(このような方法で開催された会議はvirtual meetingと呼ばれます。会社法の改正案の249L条(1)(a)、253Q条、253R条)。

株主総会や取締役会の召集通知、書面決議書、委任状、議事録などの会議に関する書類は全て電子的な方法により作成し、交付することが可能となります(会社法の改正案の253S条、253T条)。電子的な方法による作成・交付には、インターネット上に書面をアップロードしておき、クリックすることで当該書面にアクセスできるリンクを送信することも含まれます(253S条(3))。また、議事録について電子的な方法で保存することで足りるようになります(253T条)。

会議が電子的な方法で開催された場合(virtual meetingが開催された場合)には、以下の特別なルールが適用されます。

  • Virtual Meetingによる株主総会の決議の採決には、Poll(投票:参加者が行使した議決権を集計して決議の可決を判断する)の方法を使用しなければなりません(会社法の改正案の250J(1)253Q(3))。

* 他方で、Virtual Meetingではない通常の株主総会では、Show of Hands(挙手:参加者に挙手をさせてその多寡によって決議の可決を判断する)の方法で採決をすることが原則であり、議長、5名以上の株主又は5%以上の議決権を有する株主によってPollの方法が要求された場合にだけ、Pollの方法で採決がされることになっています(会社法250L条)。なお、一般的には、Show of Hnadsは、採決前に可決又は否決の結果が確実に判明している場合(会社に提出された委任状によって採決前に結果が判明しているなど)に使用され、採決前に結果が明白ではない場合にはPollの方法を採るべきであると考えられます(そうしなければ株主総会の議長は必要な注意義務を果たしていないと判断される可能性があります)。

  • 株主総会Virtual Meetingを行う場合には、会議前又は会議中に参加者から出された質問やコメントを議事録に記載しておく必要があります(会社法の改正案の251A(1)(a))。
  • 株主総会又は取締役会の参加者は、その選択により、会議で議決権を行使するか、又は(実務上可能である場合)会議前に議決権を行使する機会を与えられる必要があります(会社法の改正案の253Q(4))。

なお、上記において下線が引かれている「議事録を電子的な方法で保存すること」と「Virtual Meetingの株主総会の議事録には参加者の質問やコメントを記録しておく必要があること」については、現在臨時措置法によって一時的に導入されている改正には含まれておらず、今回の改正会社法によって初めて導入されるものになります。それ以外の点については、全て現在の臨時措置法によって一時的に導入がされており、今回の改正会社法によって永続的な変更となります。