オーストラリアの不動産ファンド

今回は、オーストラリアの不動産ファンドのストラクチャーについて説明します。日本企業の中には、オーストラリアの不動産の現物に直接に投資をするのではなく、不動産ファンドに投資を行なって、オーストラリアの不動産に間接的に投資をしている企業もあります。

1.不動産ファンドの種類及び概要

オーストラリアの不動産ファンドは大きく分けて、オーストラリア証券取引所(Australian Securities Exchange)(ASX)に上場しているファンド(A-REIT)と非上場のファンドがあります。

上場ファンド(A-REIT)については、ASXのウェブサイトA-REITがリスト・アップされています。ここで、例えば、Growthpoint Properties Australia をクリックして、このA-REITのウェブサイトへ行けば、このA-REITAnnual Report(年次事業報告書)を入手することができます。

非上場ファンドについては、Property Investment Researchがいくつかの私募ファンドの分析レポートを出していますので参考になります。例えば、「360 Capital Retail Fund – No 1」という不動産ファンドの場合、PIRの分析レポート私募ファンド自身が出している投資家向けのProduct Disclosure StatementPDSにファンドに関する詳細な情報が載っています。

2.不動産ファンドのストラクチャー

オーストラリアの不動産ファンドのストラクチャーは、信託の一種であるUnit Trustをビークルとして利用していることが多いといえます。これは上場ファンド(A-REIT)でも非上場ファンドでも同じです。

Unit Trustは信託受益権を会社の株式のように細分化した信託であり、細分化された受益権はUnitと呼ばれます。投資家は、このUnit(信託受益権)を購入することでUnit Trust(不動産ファンド)の受益者となります。日本だと、不動産ファンドのビークルとなる合同会社や投資法人は「法人」であり、投資家は合同会社に対する匿名組合の持分出資や投資法人の投資口の購入によって投資を行いますが、上記のとおり、オーストラリアでは不動産ファンドは「信託」であり、投資家は信託の受益権を購入することによって投資を行います。

オーストラリアの不動産ファンドのビークルにUnit Trustが利用される理由は、①信託の受益者は有限責任であり、信託に拠出した以上の責任を負わないこと(会社の株主有限責任と同じです)、②受益者に対する配当は基本的に税務上パススルーであること(信託のレベルで課税はされず、受益者のレベルで課税がされる)、③信託のガバナンスは柔軟であり、受益者への配当も柔軟に行えること、といったメリットによるものです。これらの点については、当ブログの以前の記事も参照ください。

この信託の受託者には、AETPerpetualといった専門の信託会社を利用するか、または、ファンドのスポンサー(ファンドを組成する者)のグループ会社を利用することになります。オーストラリアでは、日本のように基本的に信託銀行しか信託の受託者になれないといった制限はありません。

信託の受託者が基本的に信託財産(不動産)を保持し、運営を行いますが、信託財産の保持を財産管理会社(Custodian)に委託したり、信託財産の運営を資産運用会社(Asset Management Company)に委託することもあります。なお、不動産の管理はProperty Management(PM)会社に委託します。

Unit Trustを利用している不動産ファンドは、オーストラリアの会社法(Corporations Act 2001 (Cth))上のManaged Investment SchemeMIS)(集団投資スキーム)に該当し、その運営には投資家保護の観点から会社法上の規制が課せられることになります(日本では金融商品取引法上の規制に相当しますが、豪州の会社法は日本の会社法と金融商品取引法の両方の内容を含んでいます)。例えば、不動産ファンドに20名以上の投資家(受益者)がいる場合等には、Australian Securities and Investments CommissionASIC)に登録しなければならず、Australian Financial Services LicenceAFSL)を有する者を受託者(Responsible Entityと呼ばれます)にしなければならない等の規制が課されます。ただし、不動産ファンドへの投資家がWholesale Clients(機関投資家等の一定の要件を満たす保護の必要性の低い投資家)のみである場合には、ASIC登録は必要とならず、AFSL保有者を受託者にする必要はありません。

Wholesale Clientsを対象にする不動産ファンドは、Wholesale Fundと呼ばれ、そうではない不動産ファンド(Wholesale Clientsではない投資家もターゲットにするファンド)はRetail Fundと呼ばれます。Retail Fundの方が投資家の保護の必要性が高いため、会社法上、ファンドの運営に関して適用される規制が厳しくなっています。当然ながら、上場ファンド(A-REIT)は、個人投資家等も投資しますので、Retail Fundです。

なお、オーストラリアの不動産ファンドが一定の要件を満たしてManaged Investment TrustMIT)に該当する場合、当該ファンドからオーストラリア国外の投資家への配当に課される源泉徴収税(Withholding Tax)が減額されるという税務上の恩恵を受けることができます(例えば、日本の投資家の場合、本来であれば30%の源泉徴収税が15%となります)。このMIT制度は、オーストラリアのファンドを海外の投資家にとって魅力的なものとし、オーストラリアのファンド業界の競争力を高めるために導入されたものです。