信託の基礎知識(2)

前回の記事からの続きです。

(6)受託者

個人(自然人)でも法人でも信託の受託者になることができます。日本の信託業法のように原則として金融機関等しか信託業を行うことができないといった規制はありません。但し、ASICに登録されたMIS(Managed Investment Scheme)の受託者(Responsible Entityと呼ばれる)は、AFSL(Australian Financial Services License)を保有していなければならない等の規制は別途あります(MISやAFSLに関する詳細については、以前の記事をご参照)。

ファンドなどの投資用ビークルとしてTrust(Unit Trust)が使用される場合、「AET(Australian Executor Trustees Limited)やPerpetual Limitedなどの信託専門業者を受託者とするケース」と「スポンサー等が設立したSPCを受託者とするケース」の2パターンがあります。

信託契約では、受託者に広範な権限が与えられており、信託財産をどのように管理・運営・処分するかについても裁量が与えられているのが一般的です。但し、受託者は与えられた権限を受益者の最善の利益のために行使しなければならないという義務を負っています。

受託者は自らに与えられた権限・機能を外部の業者に委託することもあります。例えば、信託財産の管理や運用をAM業者に委託したり、信託不動産の物理的な管理や運営をPM契約に基づいてPM業者に委託したりすることはよく見られます。また、信託財産の保管をCustodian業者に委託することもあります。この場合、Custodian業者が受託者から信託財産の信託を受けることになり、二重の信託関係が生じます。信託財産の法的な所有者はCustodian業者となります。

(7)信託の責任

信託に関する債務については受託者が責任を負い、外部からの請求に対しては受託者が矢面に立つことになります。受託者はこの債務について、信託財産から支払いを行う(信託財産から補償を受ける)ことになります。

信託契約において受益者は拠出した信託財産を超えて責任を負わない旨の責任限定規定を定めておけば、原則としてその規定どおりの効力が認められると考えられています。このような受益者の責任限定規定の効力をはっきりと認めた判例はないのですが、オーストラリアではUnit Trust(特に投資ビークルとしてUnit Trustが使用される場合)の信託契約には受益者の責任限定規定を入れておくのが通常の実務になっています。この受益者の責任限定は、事業主体として会社ではなく信託を利用した場合において、受益者は当該事業から生じる債務について信託財産の限度でしか責任を負わず、株主が会社に対する出資の限度で責任を負う株主有限責任と同じであるといえます。

(8)信託のガバナンス

信託のガバナンスは、主にコモンロー、信託法(Trustee Act 1925 (NSW)等)及び信託契約によって規律されます。信託がJoint Ventureである場合(受益者が複数いる場合)には、受益者間の関係を規律するために受益者間契約(Unit-Holders Agreementなどと呼ばれます)が締結されることもあります。基本的には、受託者が信託の運営について広範な裁量権限を持ち、一定の重要事項の決定には受益者(Unitholder)の承認が必要という建付けになっていることが多いといえます。

(9)会計・税務

信託の事業に関する損益の計算を行い、その損益の結果(net income)は受益者に帰属します。受益者は他の事業の利益と合算して自己に適用される税率に基づいて所得税を支払うことになります(信託レベルでは所得税は課されないパススルー構造)。

信託で生じた損失は信託レベルで留まり、受益者の他の事業の利益と相殺させることはできません。但し、一定の条件を満たせば、信託は損失を翌年以降に繰り越し、翌年以降に信託に発生する利益と相殺することができます。

信託財産の受益者への払戻しについては、会社法の減資のような規制はないため、信託契約に基づいて柔軟に行うことが可能です。

信託の基礎知識に関する説明は以上になります。