就業規則等の社内規則について

オーストラリアの会社においても、就業規則をはじめとする従業員に適用される様々な規則が定められているのが通常です。

日本では、労働基準法において、常時10人以上の従業員を使用する雇用主は、就業規則を作成し労働基準監督署に届け出る義務があります。他方、オーストラリアでは、就業規則の作成は任意であり、当局に届け出る必要もありません。

1.一般的な就業規則の内容

オーストラリアでは、就業規則は、Employment HandbookEmployment Policyなどと呼ばれます。就業規則には、以下の(1)~(11)のような内容が盛り込まれることが一般的です。以下の全ての内容を一つの就業規則に盛り込む必要はなく、複数の規則(Policy)に分けて規定しても構いません。特に(8)のプライバシーに関する事項(Privacy Policy)などは、会社のウェブサイト等で一般公開されるものであるため、別個の規則として作成するのが通常です。

(1) 労働安全衛生に関する事項(Work Health and Safety Policy

⇒ 雇用主及び経営陣は従業員の労働安全衛生を確保する法的義務を負っており、この義務を果たすためにも労働安全衛生に関する事項を規則として定めておく必要があります。

(2) いじめ、ハラスメント及び差別に関する事項(Bullying, Harassment and Discrimination Policy

⇒ 労働法上、雇用主及び経営陣は職場におけるいじめ、ハラスメント及び差別を防止するために合理的な措置を採る義務を負っており、この義務を果たすためにも禁止されるいじめ、ハラスメント及び差別を規則で明確にし、また、そのような行為があった時にとられる手続についても規定しておきます。

(3) 行為規範(Code of Conduct

⇒ 従業員として期待される行為(服装の定めなども含む)を規定します。

(4) 薬物及びアルコールに関する事項(Drug and Alchohol Policy

⇒ 職場における薬物・アルコール類の禁止・制限について規定します。

(5) 休暇に関する事項(Leave Policy

⇒ 年休や病欠の取り方等について規定します。

(6) 紛争解決・苦情申立に関する手続(Dispute Resolution and Grievance Policy

⇒ 従業員が雇用主や他の従業員に対して苦情を申し立てたり、紛争を解決するための手続を定めます。

(7) パフォーマンス管理・懲戒に関する手続(Performance Management and Discipline Policy

⇒ 従業員のパフォーマンスの評価・管理の基準・手続、従業員による不適切な行為や懲戒処分の種類・内容並びに懲戒手続を定めます。

(8) インターネット・Eメール・ソーシャルメディアの利用に関する事項(Internet, Email and Social Media Policy

(9) プライバシーに関する事項(Privacy Policy

⇒ Privacy Act 1988 (Cth)に基づき従業員や顧客等の個人情報の管理に関する規則を定めます。その内容についてはAustralian Privacy Principlesに従って定められます(以前の記事を参照)。

(10) 給与・福利厚生に関する事項(Pay, Conditions and Benefits

(11) 内部通報制度に関する事項(Whistleblowing Policy

⇒ 201971日以降は、公開会社(Public Company)及び大規模非公開会社(Large Proprietary Company – ①連結の年間収入が$25百万豪ドル以上、②連結の総資産が25百万豪ドル以上、③従業員が100名以上の3つのうち2つ以上を満たすProprietary Company)は、Corporations Act 2001 (Cth)において内部通報制度に関する制度を定めることが求められます。

(12) 経費に関する事項(Expense Policy

⇒ どのような経費が会社の経費として落とせるか、経費申請の手続などを定めます。

2.就業規則の法的性質

就業規則は雇用主と従業員の間の合意(雇用契約における明示の規定又は雇用主と従業員の間に黙示の合意)によって雇用契約の内容に組み込むこともできます。この場合、就業規則の内容は雇用契約の一部となるため、雇用主と従業員の双方は就業規則の内容を遵守することが義務付けられ、就業規則に違反をした場合には雇用契約の違反とみなされます。また、雇用主が就業規則を変更する場合には、雇用契約の変更と同様に従業員の同意が必要になります。オーストラリアでは、このように就業規則を雇用契約の一部として組み込む扱いは一般的ではありません。むしろ、就業規則が雇用契約の一部とならないように、雇用契約や就業規則において明示的に就業規則は雇用契約の一部ではないことを定めるのが通常です。

就業規則が雇用契約の一部ではない場合、就業規則は雇用主による業務にかかる指図と解されるのが一般的です。雇用主は、雇用契約上、従業員に対して業務上の指図を出すことができますが、この業務上の指図を文書化して定めたものが就業規則ということになります。この場合、雇用主は就業規則の内容を遵守する法的な義務は負わず、また、就業規則の内容の変更について従業員の同意は必要ないことになります。ただし、業務上の指図は合理的なものでなければならないため、就業規則の内容も合理的なものでなければ従業員は従う義務はないことになります。従業員の立場からすれば、雇用主に対して法的義務を負わせたい事項があれば、これが就業規則に定めてあれば満足するのではなく、雇用契約の中に規定するように要求すべきといえます。