Casual Employee(臨時従業員)に関する問題(2)

前回の記事からの続きです。

3.Regular Casual Employeeを正社員とみなす判決

臨時従業員の制度と実態が乖離していたところに、最近になって裁判所が「安定して(Stable)規則的(Regular)かつ予測可能な(Predictable)シフトで勤務している臨時従業員(いわゆるRegular Casual Employeeは正社員とみなす」という判決(WorkPac Pty Ltd v Skene [2018] FCAFC 131)を出したため、オーストラリアで大きな問題となっています。臨時従業員が正社員とみなされると、雇用者からすると、正社員として継続的に雇用しなければならず、有給休暇や病気休暇などを与えなければならなくなります。Australia Industry Groupによれば、135万人もいる臨時従業員が正社員とみなされた場合、雇用主はこれらの従業員のために過去6年分(時効期間が6年のため)の103億豪ドルの有給休暇分、23億豪ドルの病気休暇分、16億豪ドルの整理解雇手当のための引当金を積み立てなければならなくなるとのことです。しかも上記の判決では臨時従業員が正社員とみなされても臨時従業員に対して支払ったCasual Loading分は有給休暇等から差し引くことはできないとされました(雇用者からするとCasual Loadingを支払った上で、さらに追加で年次有給休暇等の負債を負うことになります)。臨時従業員からすると、継続的な雇用が保証されるとともに有給休暇等の支払いを受けることができるようになり(しかもCasual Loadingを返す必要もない)非常に有利ですが、雇用者は財務・経営上大きな影響を受けることになります。特にコロナで経済時の状況が不透明な中で、オーストラリア経済にも大きな影響を及ぼすことになると考えられます。特に、Regular Casual Employeeは、オーストラリアの主要産業である観光・ホスピタリティの業界や資源業界で多く利用されているため、これらの業界に及ぼす影響(コスト増など)は大きいと考えます。

4.その後の動向

上記の判決を受けて、201812月に連邦政府(自由・保守連合)が規則(Fair Work Regulation)を改正し、Double Dipping(「Casual Loading」と「年次有給休暇等」の二重取り)を防止するための措置を導入しました(Fair Work Amendment (Casual Loading Offset) Regulations 2018)。

具体的には、Casual Loading部分が明確に区別できる形で支払われていれば、臨時従業員が正社員であると判断された場合、当該臨時従業員に支払われたCasual Loadingの金額は当該臨時従業員が受領できる年次有給休暇等の金額から控除できることになりました。しかもこの改正規則は過去に遡って適用されることが定められました。

その後、20199月に野党である労働党が連邦議会上院(Senate)において上記の改正規則を廃止する提案を出しましたが、上院の過半数を占める自由・保守連合によってこの提案は否決されました。

しかし、20205月に出された連邦裁判所控訴審での判決では、第一審における「いわゆるRegular Casual Employeeは正社員である」という判断を承認した上で、雇用者が支払ったと主張していたCasual Loading他の給料部分と明確に区別されていなかったため、上記の改正規則によっても年次有給休暇等の金額から控除できない、とされました(WorkPac Pty Ltd v Rossato [2020] FCAFC 84)。

敗訴したWorkPac Pty Ltdは、現在、最高裁判所(High Court)に上訴中ですが、最高裁判所が控訴審の判決を覆す可能性は低いと考えられています。

また、控訴審の判決を受けて、オーストラリアの会社の所轄官庁であるASICは、いわゆるRegular Casual Employeeについて年次有給休暇等の引当金を積むように各会社に対して求めるコメントを出しました(参照先リンク)。これを受けてオーストラリアの会計事務所はRegular Casual Employeeを利用している会社に対して引当金を積むように求めてきています。

このRegular Casual Employeeの問題は、オーストラリア経済に与える影響が非常に大きいため、連邦政府がこの問題を抜本的に解決するための立法措置を採る予定である、と述べています。しかし、これは現在のところ連邦政府(与党)が雇用者・経済界寄りの自由・保守連合であるからであり、連邦選挙で労働党(野党)が政権をとった場合、そのような立法措置は覆される可能性があります。

最高裁判所が今後どのような判決を出すことになるのか、連邦政府は立法措置により介入するのか、労働党も納得できるような解決がされるのか、など今後の動向を注視していく必要があります。