ウェビナー『オーストラリアにおける不動産投資と法的問題点』とストラクチャーに関する補足説明

1.ウェビナーについ

2020年9月2日(水)にクレイトン・ユッツ法律事務所が主催し、不動産証券化協会が後援するウェビナー『オーストラリアにおける不動産投資と法的問題点』で、オーストラリアの不動産法制度(外資規制を含む)を説明し、オーストラリアにおける不動産投資案件(不動産取得、不動産開発、不動産ファイナンス、不動産ファンド投資)の取引ストラクチャーについて解説しました。

ウェビナーの録画はこちらから視聴することができます。

また、ウェビナーの資料はこちらかダウンロードすることができます。

オーストラリアの不動産法制度や不動産投資案件に興味のある方はぜひご覧ください。

なお、ウェビナーの中で時間がなくて十分に説明できなかった「不動産投資のビークル(Special Purpose Vehicle – SPV)は信託と会社のどちらが有利か」という点、及び「物件毎に設立されたSPVを束ねるHolding SPVを使用することのメリット」について、以下補足の説明をします。

2.不動産の投資ビークル(SPV)は信託と会社のどちらが有利

結論を先に述べると、信託と会社のいずれでも、基本的には、オーストラリアで課される税金は利益の30%で同じです。

(1)SPVが会社の場合:

オーストラリアの会社に適用されるIncome Taxは税率30%であるため、不動産を保有している会社(物件保有SPV)は利益の30%をIncome Taxとしてオーストラリア税務当局に支払います。その後、残りの70%を親会社に配当します。親会社がオーストラリアの会社の場合、親会社は配当として受領した70%分の利益についてIncome Taxは課されません(物件保有SPVが支払った30%分のIncome Taxを親会社に課されるIncome Taxから控除できるためです – これをFranking Creditといいます)。すなわち、物件保有SPVと親会社の両方で同じ利益に二重に課税がされないようになっています。

親会社がオーストラリア国外の会社(たとえば日本の会社)である場合、国外の親会社に配当を行う際に、源泉徴収税(最大10%)が課されますが、この源泉徴収税からオーストラリア国内で既に物件保有SPVが支払っている30%分のIncome TaxをFranking Creditとして控除できるため源泉徴収税はゼロになります。したがって、国外の親会社は70%の利益を受領できることになります。結局、オーストラリア国内で支払われた税金は、物件保有SPVが支払った30%のIncome Taxのみとなります。

上記でダウンロードできるウェビナーの資料の22ページのストラクチャーでSPVに会社を使用した場合は、以下のような流れになります。不動産から上がった収益について物件保有SPV(会社)が30%のIncome Taxを支払う。物件保有SPVは残り70%の利益をHolding SPV(会社)に配当する。Holding SPVは配当として受領したこの70%の利益についてIncome Taxは課されない。Holding SPVはこの70%の利益をさらに日本の親会社(会社)に配当する。日本の親会社への配当の際に源泉徴収税は課されない。日本の親会社は70%の利益を受領する。

(2)SPVが信託の場合:

不動産を保有している信託(物件保有SPV)の利益は信託の会計年度末において、受益者に分配されることになり、受益者に適用される税率で税金が課されることになります。信託を複数重ねて利用している場合、利益はそのまま間の信託をパススルーしていき、最終的な受益者のところで当該受益者に適用される税率で税金が課されます。

最終的な受益者がオーストラリアの会社の場合、上記(1)で述べた通り、オーストラリアの会社に適用されるIncome Taxは30%であるため、利益の30%を税金として支払い、70%が手元に残ります。

最終的な受益者がオーストラリア国外の会社の場合、オーストラリアの国外の受益者に対して分配する際に源泉徴収税が課されます。受益者が会社である場合、この源泉徴収税の税率は30%となります。したがって、源泉徴収税として利益の30%が差し引かれ、残りの70%がオーストラリア国外の受益者に分配されます。

上記でダウンロードできるウェビナー資料の22ページのストラクチャーでSPVに信託を使用した場合、以下のような流れになります。不動産から上がった収益について物件保有SPV(信託)がパススルーでHolding SPV(信託)に分配される。Holding SPVも信託であるため、パススルーで日本の親会社(会社)に利益が分配される。ただし、Holding SPVから日本の親会社への分配の際に、源泉徴収税が課され、利益の30%が差し引かれることになる。日本の親会社は70%の利益を受領する。

上記(1)と(2)のとおり、SPVが会社であっても信託であってもオーストラリアで支払う税金は利益の30%となります。

しかし、これは原則であって様々な修正が必要になります。

たとえば、オーストラリアの会社に適用されるIncome Taxは、会社の年間売上が$50百万豪ドル未満であれば、30%ではなく27.5%となります。したがって、SPVに会社を使用した場合、オーストラリアで支払う税金を2.5%だけ減らすことができます。

また、オーストラリアから国外の受益者に対して支払う信託の分配に課される源泉徴収税は、受益者が会社であれば30%ですが、個人(自然人)であれば最大45%となります。したがって、国外の最終受益者が個人である場合に、SPVに信託を利用すると、オーストラリアで支払う税金が45%にもなってしまい、SPVに会社を使用する場合に比べて大幅に不利になります。

さらに、信託を利用する場合で、その信託がManaged Investment Trust(MIT)(ウェビナーの資料の25ページの解説またはこちらのページを参照)に該当すると、国外の受益者に対して支払う信託の分配に課される源泉徴収税は(受益者が個人であっても会社であっても)15%又は10%に減額されます。これはSPVに信託を利用することの大きなメリットです。オーストラリアの不動産ファンドのビークルがほぼ全て信託(Unit Trust)である理由は、このMITの制度があるためです。MITの不動産ファンドに投資する場合、国内の受益者(投資家)が30%の税金を払うのに対して、国外の受益者(投資家)は15%の税金しか払わないため、国外の投資家の方が国内の投資家よりも優遇されているとオーストラリア国内で批判されるくらい有利な優遇措置となっています。さらに、MITの配当について、国外の受益者はオーストラリアで税務申告をする必要はありません。

オフィスビルを開発する際に、海外から投資家を募ってファンド化する可能性も視野に入れて、将来MITが利用できるように、初めから信託(Unit Trust)をビークルにしておくこともあります。他方で、マンションや宅地を開発して個々の顧客に売り切ってしまう場合、将来MITを利用する可能性はないため、ビークルを会社にするということもあります。

3.物件毎に設立されたSPVを束ねるHolding SPVを使用することのメリット

Holding SPVについては、上記のウェビナー資料の22ページと23ページを参照。

メリット①:Holding SPVとその下にある複数の物件保有SPVを連結化して、物件毎の損益を通算することができるようになります。

メリット②:Holding SPVを会社にすることにより、オーストラリアの事業を統括するEntityとすることができます。このHolding SPVの下に不動産と関係ない事業を行うオーストラリアの子会社をぶら下げても良いですし、そこで上がった収益を国境を跨いで日本まで送金せずにHolding SPVの下で留めておき、さらにオーストラリア国内での再投資に回すこともできます。